月ノ雫

□Dream Knight
2ページ/15ページ


 学校が終わり、下校時にも人だかりが出来る。きっとあの中心には雪先輩がいる。さっきの感情の流れがわけ分からなくて混乱したけれど、やはり私も雪先輩を見たい。その欲望が勝って、女子達の隙間を通り、若干前に位置取りが出来た。
「あ……」
 雪先輩と、目があった。やっぱり先輩は、私を見ている。まるで待っていたかのように、私だけを見つめている。
 胸が、張り裂けそうに痛んだ。この感情は、何? どうして突然、私はこんなふうになったのだろう。ああ、きっかけは、夢だ。でも、どうしてだろう。
 雪先輩は少しだけ私に視線を残し、下校して行った。寂しくなる。悲しくなる。行かないでって、叫びだしそうだった。




 友人と別れ、帰途。町並みを彩る桜に見とれた。桜は――桜木、雪先輩を思い起こさせる。再び胸がちくりと痛んだ時、
「田辺真菜さん」
 私の名前を呼ぶ声が、背後から聞こえた。振り向くと、雪先輩が、いた。
「雪、先輩……? え、どうして私の名前……」
「もうじき暗くなる。早く帰るんだよ」
 私の問いには答えず、雪先輩はそれだけ言うと、人込みに溶けていった。
 今のは、桜が見せた幻? ううん、確かに雪先輩だった。初めて喋ったことに、鼓動が高鳴っているのが分かる。
「でも、何で私の名前を知っていたんだろう」
 そんな疑問の独り言を呟いて、帰路につく。雪先輩は、私のことを知っていたのだろうか。私だけが一方的に知っているだけと思っていたけれど、雪先輩も、私を気にしていてくれた、とか。だったら、嬉しい。
 今日はハッピーデイ。雪先輩と、少しだけどお話し出来て、名前を知っていてもらえた。私は、雪先輩に対して抱いた複雑な感情と不思議な夢のことを忘れて、眠りについた。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ