月ノ雫
□Dream Knight
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夢、またあの夢。私は綺麗なドレスを身に纏い、部屋の扉を開けて広い廊下に出る。扉の横には、騎士姿の雪先輩がいた。
「――」
私は、雪先輩の名前を呼ぶ。呼んだのに、聞こえない。
「――姫。おはようございます」
姫って、私のこと? 先輩も私の名前を呼んだのに、その部分だけが聞き取れなかった。
雪先輩の後を追うように、私は歩く。丈の長いドレスは、とても歩き難い。先輩に手を伸ばし、その腕に絡めた。恥ずかしい、なんてことを私はしているの。でも、とても暖かい気持ち。
雪先輩が私を見下ろし、微笑む。私はその端正な顔を見つめ、頬を赤らめた。
凄く、凄く、幸せな夢だった――。
ハッとして、目覚めた。カーテンの隙間から、陽射しが私を照らしている。ゆっくりと起き上がり、夢の中で絡めた、自分の腕を撫でた。
「感触が、残ってるような……」
そして、温もりも。
「どうして、こんな夢を見るんだろう」
そう呟きながら、パジャマから制服へ。朝食のトーストをかじり、夢の中の先輩を思い出していた。
鞄を持ち、家を出る。暫く歩くと、昨日、雪先輩とお話しした桜並木へと辿り着く。風が吹き付け、花びらが舞い踊る世界に心奪われながら、学校へと向かった。
やっぱり、校門前にはお馴染みの人だかり。雪先輩を待つ女の子達だ。そこに私も加わって、そわそわと身嗜みを気にしていた。
黄色い声が上がり、雪先輩が来たことを教える。女の子達は前へ前へと進み、私はその凄い力に弾き出されて、後ろの方から雪先輩を見つめた。
「おはようございます!」
女の子達は口々に、雪先輩に挨拶している。雪先輩はそれには答えず、ゆっくり周囲を見渡している。そして、私と視線が交わった。
「あ……」
先輩が、微笑んでいる。女の子達は喜びの声を上げるが、その微笑みは私に向けられている。自意識過剰なんかじゃない。だって先輩は、私を探して、私と目が合ってから、笑ってくれたんだもの。
夢の中の笑顔と、何ら変わらなかった。また、胸が締め付けられる。泣き出してしまいそう。雪先輩が恋しくて、愛しくて――こんなに気持ちが暴走するのは、間違いなく、あの夢が原因だ。