期間限定駄文小説部屋

□は泡にもなれない
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夕焼け色に染まる教室。また私の1日は終わる。


アレからと言うものの、佐久間は毎日毎日、愛しの彼女のノロケを話してくる。最初は嫌々ながらもちゃんと聞いてあげていた。けど、最近はうざったすぎて、右から左へ聞き流していた。


佐久間があの子と付き合って、私の世界は色を失った。何もかもが下らなくて、つまんない。こんなにも世界はつまんなかったっけ。

「おい、聞いてんのかよ。今日水曜日だからアイツと一緒に帰れないだよ」


水曜日。


その言葉にはっとした。いけない、忘れるとこだったわ。


水曜日。我が校には毎週、この日の放課後には生徒委員会による会議がある。生徒会のメンバーである佐久間の彼女さんは勿論その会議に出席する。だから、いつも以上に佐久間がうざかったのか。


うだうだといつまでも五月蝿い佐久間に私は、


『サプライズで、校門で待ってあげれば?』


と言った。そう言った瞬間佐久間は笑顔を取り戻す。ホント、単純ね。そんなとこも好きだったわ。でも、もう戻れないのね。私は佐久間と別れるといつものように生徒会室の隣にある教室に身を潜めた。


◇◆◇


夕焼けも沈み始め、綺麗なグラデーションのかかった空。漸く会議が終わったのか、教室から姿を見せた彼女。私はその子が独りになったのを確認すると、いつものように後を付け始めた。


それはもう、じっとりと睨み付けながら。こんな事が数週間続いている。自分自身、陰湿だと思ってる。でも止められなかった、止めようとも思わなかった。


後を付けて下駄箱まできて、私は佐久間に言った事を思い出した。こんなとこで自分のお人好しが仇になるなんて、計算違いだったわ。仕方なしに私は彼女と距離を置いてから乗降口を後にした。


校門に着く頃には二人は幸せそうに手を繋いで家路を辿っていた。あの子が笑えば佐久間も笑う。


あぁ、あの子も佐久間を愛しているのね。真珠の瞳から零れる乙女の涙は、一体どんな味がするのだろうか。愛は甘いと聞くからあの子の涙はきっと咽が焼ける程甘いのでしょうね。それを飲み干してあげたら、佐久間への愛も無くなってあの子は私に佐久間を返してくれるのだろうか。あぁ、いっそ泣かせようか。そうすれば私がその愛でさえも佐久間に注いであげるわ。
だから、そこどいてよ。ねぇ、そこは私の場所よ?ねぇ…、ねぇ…!!



そこまでいって私は立ち止まった。今、私は何を思った?彼女を壊そうと思ったわ。……怖い、自分で自分に恐怖を抱いた。


私は最後まで二人を見送らず家へと走って帰った。帰るなり飛び込んだ自分のベッドで、私は大粒の涙を流した。ぎしりとなるスプリングの音が、哀れな私を静かに見下ろしていた。




恋した人魚は泡にもなれない




そしてまた目が覚めれば、つまらない1日を過ごすの。




 

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