番外編
□真紅色に想いを馳せて
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そう言うとあからさまに落ち込んだ玖苑。しかし、まだ諦めきれないのか、目はボールを見つめたままである。でも確かにそろそろ話も尽きていた頃だ。サッカーは無理だが、何か別な事でもするか…?けど、暇さえあればサッカーをしていた俺達はサッカー関連以外の物は余りやった事が無い。一体何が…?
うーんと頭を捻っていると髪の後ろがなんだかわさわさと動き、少し引っ張られる感覚がした。
目線だけ後ろに運ぶと、どうやらいつの間にか玖苑が俺の後ろに周り、髪を弄っていたようだ。色素の薄い髪の間を滑る玖苑の白い指を目で追いかけながら、楽しいのだろうかと首を傾げた。そこで玖苑は何かを思い出したかの様に一度離れると引き出しを漁り出した。
直ぐに戻ってきた玖苑の手には綺麗な装飾のされた櫛があった。それを俺の髪に近づけると、まるで割れ物を扱うかの様に梳かし始めた。丁寧に、丁寧に。
「…男にするもんじゃないだろう……。」
『ん、嫌か?』
「いや…まぁ、な。……別にいいけど。」
余り慣れない事だからか、少しこそばゆい。いつもはここまで丁寧に梳かさないのだ。まぁ、こんなに伸ばしておいて言うのもアレだが、腐っても自分は男だ。髪なんかいちいち気にしない。手入れなんぞ微々たりともしなければ弄りもしない。唯一するとすればシャンプーの後のリンスぐらいだ。それでいてよく傷まないなとは自分でも思うが。
『佐久間の髪は綺麗だな…。しかも全く絡まらない。』
「男が髪褒められてもな…」
『ごめん、ごめん。あまりにも綺麗で。』
くすくすと笑う玖苑に対して複雑な心境である俺は思わず顔を顰める。それに気付いたのか玖苑はまたごめんと言って俺の髪を一つに結い始めた。
「っ、おい、」
『待って、もう結び終わる……ほら、』
綺麗に結べた。
そう告げて俺から離れた玖苑は俺と正面になるようにベッドに座った。そして結んだそれを見ながら満足そうにまた、綺麗、と呟いた。その時に気付いた事はいつも結んでいた紅色の髪結いが片方無かった事だった。
『佐久間の髪は本当サラサラだな、触っていて飽きない。』
「っ、…あのなぁ、」
『それに、』
途中まで言いかけて、すっと手鏡を持った。そのまま、また俺の後ろに回り込んだかと思うと、先程結った髪を写す。
其処に写ったのは、彼女の手で綺麗に結われた俺の髪と、彼女がいつも身につけていた、
『俺と御揃い。』
真紅の結いゴムだった。
真紅色に想いを馳せて
(まぁ…悪い気はしない、かな)
(今度はツインテールしてもいいか?)
(却下!)