エピソードX


□災厄の君へ
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自分は誰なのか。ここは何処なのか。

誰に生めと頼んだわけでもなければ造れと願ったわけでもなく。望まない生の受け方にこの世界の全てを恨んで憎んだ遠い過去。

攻撃でもなければ宣戦布告でもない。


これは。

身勝手に生み出した人間たちへの──逆襲。


「……おにいさま」


書物に記された古い物語。


先祖の弊害は。

少しずつ形を変えて今も尚息づく。


「シア様」

本の表紙に手を置いて閉じる。

使用人に目を向ける。

「今いきます」


かつてポケモン達を脅かした災厄の一族。

争いを引き起こしたミュウとミュウツーの血を色濃く受け継ぐ私たちの家系は、それぞれが宗家と分家に分たれていた。

ミュウの血筋たる宗家の繁栄を助ける為に。未来永劫、先祖の過ちを償うべく。かつてミュウの遺伝子を組み替えて造り出されたミュウツーの血筋たる分家がその生涯をかけて尽力する。


偽物(コピー)本物(オリジナル)以上には成れない。


そうで在るべきなのに。

「……おにいさま」


分家の人間でありながら。類稀なる能力と才能を持って生まれ落ちたあのひとを。


──ユウ・ブランを。


私は、絶対に。……許さない。
 
 
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