短編集

□今年こそ
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今日は2月14日、

待ちに待ったバレンタインだ

去年は仕事で渡せなかったものを、今年こそあいつに渡すんだ











『ボス、何にやにやしてるんですか』




そう俺に投げかけるのは、秘書の夜宵


俺の信頼できる弟分が拾ってきて、色々あってここへ来た

身元も記憶も何もなかったが、俺はこいつが好きだ


ファミリーとしても、一個人としても





「ぅお、にやにやなんかしてねぇよ」



そう反論する俺は、イタリアのマフィア

キャバッローネというマフィアのボスだ






『…別に弁解しようが勝手ですけど、』

「いつもながら辛口だな」

『それが取り柄ですので。そういえばボス、知ってます?』

「ん、何がだ?」

『今日2月14日、バレンタインじゃないですか』



あっさりとそう言う夜宵

俺が用意してるの、知らないだろうな



『ここに来る前に、色々なものを渡されました。置いてても大丈夫ですかね』

「え」



そんなの初耳だ

ありえないと思っていたが、夜宵の机の上にある包装された大量の箱や花束を見て、少し落ち込んだ

きっとロマーリオとかが渡してるんだろう

夜宵と話すいいチャンスだしな



「……それ、全部贈り物か?」



聞きたくもなかったが、確認してみる




『はい、義理は沢山もらいましたけど』




言いながら平然とその中のひとつの包みを開け、中身を食べる



「…で、誰から貰ったんだ?」



大体分かってる、

でも聞かずにはいられなかった



『…これはロマーリオ、こっちはマイケル、ボノ、イワン、あとボンゴレのみなさん、ヴァリアーのみなさん、それと――』

「あぁ、もういい」



まさか、ツナやヴァリアーからも貰っていたとは

確かにこいつはいろいろな人に好かれていたな

これじゃ、他のファミリーとかからも貰ってそうだな



ふぅ、とため息を吐くと、夜宵が俺の方を見ていることに気付いた




「…どうしたんだよ」

『ボス、プレゼントはまだですか?』

「は、」

『知ってるんですよ、私。去年も用意してたけど私にくれなかったでしょう?』

「なんで、」

『カマ掛けました』




憎らしくも愛らしい笑顔でそう言う

俺は、夜宵に敵わないみたいだ




笑顔で手を差し出した夜宵の手に、ひとつ

銀色のリングを置く



夜宵は数秒間そのリングを見つめ、答えを求めるように俺を見た


答えなんて、分かってるくせに






「俺は、お前が好きだ」

『はい、それは知ってます』

「だからお前を…夜宵を俺のものにしたい」





全身の勇気を振り絞り、言葉を紡いだ

なのに夜宵は普段と変わらぬ表情で言う











『お返し、今あげましょうか?』










何を、と聞く前に

夜宵との距離がゼロになった






微かなリップ音で、俺は現実に戻ってきた




「………え、つまりこれって…」

『これで感付かないなら、私は一生ボスを恨みます』

「ははっ、必ず幸せにしてやるよ」

『当たり前ですよ』













今年こそ











(実は、去年渡してても私の返事は同じでしたよ)
(え、いつから俺を好きだったんだ?)
(私を助けたのがボスだと聞いた時からです)




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