短編集

□貴女は既に
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『ねぇ骸、今日はなにをするの?』


僕の椅子に座り、平然とした顔でそう言う彼女。

名前は夜宵。


「…特に何もしませんが。」

『またチョコ食べてー、お昼寝してー、ツナに怒られる…の繰り返し?』


バカにしたような、それでいて愛嬌のある笑顔。


「…夜宵さん。」

『なに?いつもみたいに夜宵でいいのにー。』


けらけら笑う姿も好きだった。


「…いえ、なんでもありませんよ。どうせ貴女もチョコを食べるのでしょう?」

『うん!よくお分かりで!』

「今日はとってもいいチョコを貰いましたので、一緒に食べましょうか。」


そういうと、頬を少し赤らめて笑う。

僕は、その笑顔が好きだったんだ。







『ふー、やっぱチョコにはココアだねー。』


極度の甘党な彼女は、甘いもの×甘いものは日常茶飯事だった。

チョコとココアを一緒に食べる光景も見慣れたものだ。


「…決して悪いとは言いませんが、限度というものがあるでしょう。」

『ぶー。甘いものは正義なの!』


よく意味の分からないことを言うのも、懐かしい。



…そう、懐かしいんだ。








「……もう、そろそろ良いでしょう。」

『ん?どしたの?』

「…こっちももう、限界なんです。」

『何、骸どこか痛いの?』

「違います。…夜宵、貴女は一体誰なのですか?」



そういうと、わけが分からないという顔をする。

僕もわけが分からないのに。



「僕の知っている夜宵は……3年前に事故に合って死んでます。」


それなのに、ひと月前ほどに僕の前に現れて。

最初は幻覚だとか思ってた。けど、幻覚じゃなかった。

綱吉にも雲雀恭弥にも、夜宵は見えていなかったけれど、確かに夜宵は夜宵だった。


気付いて、どれだけ嬉しかったか。

彼女が戻ってきた。それだけで僕は嬉しかった。



「だけどもう、だめなんです。」

『何が、だめなの?』

「貴女がもし、実体のある霊だとしたら。あなたは成仏できないままだ。」



誰にも分からなくても、このまま過ごせたら、と何度も思った。

夜宵が消えてしまえばきっと、僕はまた堕ちてしまうだろう。


でも。



「僕は輪廻を生きてます。来世でもその次でも、きっと夜宵と巡り合える。

だから、お願いです。どうか、もう眠ってください。」



きっと今酷い顔をしているだろう。

顔をあげたくなかった、夜宵にこんな顔を見せられない。

そう思っていると、頬を手で挟まれ、上を向かされた。



「ふ、」

『……酷い顔。イケメンが台無しだよ。』

「煩いですよ…。」

『…私もね、気付いてないわけじゃなかったの。でも、骸と居ると楽しくてさ。

大丈夫。もう、引き際だから。』



そういうと、顔を近付けられ、額を合わされた。

僕は反射的に目を瞑る。




『…出会えてよかった。また来世も、よろしくね。』







目を開いた時にはもう、彼女はいなかった。










貴女は既に











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