私は夫に愛されていた。
私は夫を愛してはいなかった。
そんな可哀想な夫は、昨晩息を引き取った。
嬉しくも、悲しくもない。
小さい頃の記憶はないが、そこそこ裕福な家で私は育った。
そしてそこそこ有名な学校に行き、そこそこな人生を送ってきた。
旦那と出会ったのは、イタリアの郊外。
大学生時代に親友と、、イタリアへ観光に行った。
その時に、偶然出会った。
どうやら彼は私に一目惚れをしたらしい。
そのまま熱烈なアプローチやら私の大学に短期留学やら…凄かった。
愛するより愛される結婚の方が幸せだとどこかで聞き、私は折れた。
大胆な彼に似合わない、とても小さな結婚式を挙げた。
それから数か月したある日のことだ。
「…夜宵、俺の仕事って何か知ってる?」
『…さあ?』
「俺さ、マフィアのボスやってるんだ。」
最初は冗談だと思った。
よく冗談を言う人だったし、マフィアなんて現実味無いし。
でも、彼の目はとても真剣だった。
「…今度またパーティーがあるんだけど、ちょっと危ないかもしれないんだ。」
『……私、前からずっと言ってたわよね?』
「ああ。俺のこと、心から愛してはいないんだろ?」
『まぁ、詳しく言えば愛せない…なんだけど。』
「へぇ…それは初耳かな。」
話すと長くなるし、あまり好きな話ではないので黙り込む。
でも、その日彼は諦めなかった。
「お願い聞かせて。今じゃないとダメな気がするんだ。」
元々彼は直感がすごくよく当たるし、話すのは今なのだろうと思った。
『よくわからないけど私、感情が人より薄いみたい。特に恋愛感情が。』
それから私は話した。
うっすらと施設にいた記憶があること。
小学校に上がるころから、感情が徐々に薄れていったこと。
これもまさに、マフィアに並ぶほど現実味のない話だけれども。
彼は何も言わず、ただ聞いていてくれた。
「そっか…。話してくれてありがと、今日はよく眠れそうだよ。」
『うん…。』
その“ありがとう”という感情でさえ、よくわからないのだけれど。
そう思っていると、彼の携帯から着信音が流れた。
「…もしもし。うん、うん…わかった。」
何かを覚悟したような瞳が、私を捉えた。
「俺、ちょっと出かけるね。長くなるかもだけど……ごめんね。」
そう言い、私の額にキスをして彼は出て行った。
ただ、額から伝わる熱が、私に不安を覚えさせた。
それから数時間後、彼は廃墟で見つかった。
心臓を打たれた、と彼の部下という人から聞いた。
彼はとても泣いていたけど、私にはよくわからない。
葬儀の時も、埋葬する時も。
みんなすごく泣いていたけど、その感情が分からなかった。
ただ…最後の“ごめんね”が、頭から離れなかった。
感情
(これが、寂しいというものだろうか…)