短編集

□臨時教師
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オレは今、十代目の命によりとある高校に潜入している。

どうやらこの高校には、敵対マフィアに通じる男が勤めてるらしい。

まだ危険性は薄いとのことだったが、いつ行動を起こすとも分からない。

早めに対処するべきと考えた十代目の意向に沿い、オレはここの臨時教師になっている。





とある日の放課後、一人の生徒から話しかけられた。


『あっ、あの!』



規定通りの髪型に黒縁のメガネ。

いかにも真面目そうなこいつは、オレの教えてるクラスでは見たことがない。


『私、C組の夜宵って言います。ちょっと授業内容を教えていただきたくて…。』


真面目そうな生徒はやはり真面目だった。

放課後にまで勉強をするなんて。


「いいぞ。どこがわかんないんだ?」

『えっと、ここの問題なんですけど…。』






「…ここの公式は分かるか?」

『な、なんとか…授業で見たことあります…。』


あれから数十分。

こいつは予想以上にバカだった。


『すいません…時間を取らせてしまって…。』

「…まあ、臨時とはいえオレも教師だ。教える立場だからな。」

『ありがとうございます……。』

「…もうすぐ最終下校の時間だ。残りは明日にするぞ。」

『あっはい!お願いします!』


満面の笑みを浮かべ、頭を下げてぱたぱたと帰る。

廊下は走るな、と注意すれば早歩きに変わった。




それからほぼ毎日。放課後に教室で補習をするようになった。

もちろん当初の目的も果たすため、放課後から一時間だけの特別授業だ。


授業でカップケーキを焼いた時は、『いつも勉強教えてもらっているから…』と言って渡してきた。

『コーヒーも飲んでいらしたので…甘さ控えめにしたつもりです。』

なんて気を利かせて作ってくれたカップケーキは、とても美味しかった。







それから数週間。


薄々、気付いてはいた。

でもオレは、臨時教師を演じているマフィアだ。


命の大切さを教える前に、命を奪う側なのだ。

それに、オレには果たさなければならない目的だってある。








「……まあ、ここまで出来れば後は大丈夫だろう。」


いつもより口数の少ない授業。

明日、オレはこの高校を出る。


目的の男も捕まえ、今はボンゴレで取り調べを受けているはずだ。

オレがこの高校に居る用がなくなったのだ。


オレの口からは言っていないが、多分こいつは俺が居なくなることを知っている。

十代目ではないが、何故かそんな気がするのだ。


『…獄寺先生。』

「…なんだ。」


俯いたままの状態だったが、今日初めて口を開いた。


『本当に…明日なんですか?』


オレは返事が出来なかった。


『…まだ、期末テストまで時間があります…。』

「今の状態なら十分だ。80点は取れると思うぞ。」

『…結果、聞いてください…褒めてください…。』

「…聞かなくても大丈夫だろう。」


ばっと上げた瞳には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。


「別に泣くことはないだろう。オレは臨時教師なんだ。」

『……先生、私、』

「ほら、もうすぐ約束の一時間だ。次のテスト頑張れよ。」


続きを言わせないように、話を遮った。

そして教室を出ようとする。


『…っ先生!』


呼び止められたが、振り返らずに立ち止まる。


『次のテスト、もし満点取ったら、また会えますか…?』


「…その時は――――。」
















臨時教師







(どうしたの獄寺君)
(十代目ぇ…)
(自分のヘタレさを嘆いてるだけですよ)




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