楽園の夢

□ちょっとだけ
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 銀が外出から戻った時、ジョンはソファに座ってうたた寝をしていた。開いたままの経済誌を手にしているところを見ると、寝オチというやつか。ジョンのこんな無防備な姿はそうそう見られるものではないので、銀はしばし堪能することにした。
 外国の血が濃い、彫りの深い顔立ち。いつもは怖いくらいにカッコイイのに、安らいだ表情の今はちょっとカワイイような気さえする。


(まつげ、長いな)


 息がかかったら、目を覚ましてしまうかも。呼吸もひそめ、彼の寝顔を間近に見る銀はふと、ジョンの左手が無造作に放り出されているのを発見した。
 いつもさりげなく、けれど明確な意図を持って触れてくる手。銀は知らず、こくりと喉を鳴らして気付けば、ジョンの隣にそっと腰を下ろしていた。


(い‥、‥‥いいよ、ね‥‥?)


 そっとそっと、手を伸ばして。


(いいよね?ジョン。俺から触れても‥‥)


 そろり、そろりと。指を絡めたら、頬が熱くなった。
 指を絡めてしまったら、箍が外れた。とは言え、銀のそれは控えめな、可愛らしいものだけど。ぴったりと身体を寄せ、腕も絡める。繋いだ手は指が長くて、その感触を知っているだけに頬の熱は上がり、顔と言わず首と言わず広がるばかりだ。
 視線を上げれば、端整な横顔。薄く開いた唇に、とくん、と胸が高鳴って、銀はその唇が自分に触れる瞬間を思い出した。


(‥‥ダメダメ、こんな昼間から!)


 慌ててぶんぶんとかぶりを振るが、溢れ出した熱情はたどり着く先を探している。


(‥‥‥ちょっとだけなら、いいかなあ)


 長いまつげの陰が落ちる、シャープなラインの頬に。その頬に、自分から触れても。彼が眠っている、今なら。
 絡めた指を、きゅ、と握って銀は、お願いだから目を覚まさないでと、祈るような心地で目を閉じた。


(好きだよ、ジョン‥‥)


 そうして唇で頬に触れれば、ぷしゅーとばかりに力が抜けて。ドキドキしてたまらないけれど、達成感が心地よかった。
 そのまま銀は、ジョンの肩にもたれて眠ることになるのだが。惜しむらくは銀からのはじめてのキスを、ジョンが夢にも思わないことだった。




end.

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