楽園の夢
□空に咲く花
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春遅い奥羽の山にも、兆しはやってきた。散歩に出たジョンが見つけた、白い花。樹木についたいくつもの蕾の中、ひとつがほころび始めている。
「フッ、もう春か‥‥‥」
その花の名前を、かつてそれなりの月日を人と暮らしていたジョンは知っている。コブシというその花は、桜より早く春を告げるのだ。
しばらく眺めていたジョンだが、ふと一匹で見るのはもったいない、と思った。
「さて、銀を呼んでくるとするか」
ひとりごち、くるりと身を翻して歩きながら、ジョンは思う。
―――銀は、喜んでくれるだろうか?
あの、くるん、と上に巻かれたふさふさのシッポを、ぱたぱたと可愛らしく揺らしてくれるだろうか。いまだ幼さの抜けない丸っこい目に、春の喜びを浮かべてジョンを見てくれるだろうか?
「――‥まあ、余計なのもくっついてくるんだろうがな」
銀が花を見に行くと言えば、ぞろぞろとついて来たがる仲間もいるだろう。赤目やスミス辺りは気を使ってくれそうだが。
「ま、いいか」
だって、春だからな、とジョンは浅い浅葱の空を見上げた。銀が喜んでくれればそれでいい。
それだけでかまわない、と―――
end.