楽園の夢

□すべすべぽかぽか
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 寒い寒いこの季節、リラックス出来る家風呂は格別の心地よさだ。それが、恋人と暮らす家ならなおのこと―――






  すべすべぽかぽか






「おかえり、ジョン!‥‥‥あのさ、あの‥‥‥‥今日は、一緒に風呂、入らないか?」


 それは、仕事から帰ったジョンを、銀が上目遣いで出迎えながら口にした誘いの言葉。ジョンは瞬間、己の理性がぐらつく音を聞いた気がしたが、大人なのでなんとか保ちこたえる。


「‥‥どうした、銀?」
「スミスが温泉の素くれたんだ。甲斐たちとスキーに行ってさ、そのお土産だって」


 甲斐たちは饅頭をくれたよ、と銀は楽しそうに話すのだが、ジョンは少々眉尻を上げる。


「‥‥あいつら、スキーと温泉行くのにお前は置いてったのか?案外薄情だな」
「え?あっ、違うよ!?今回はさ、女の子たちが一緒だったから、‥‥俺のことは、誘ったフリだけしてごまかしてくれたんだ」


 むしろ、気を遣い過ぎだよな、と銀が、照れくさそうに笑う。ジョンも、銀のはにかんだ笑顔に表情がやわらいだ。
 この笑みに、心惹かれる者が自分だけとは限らない。ジョンはひそかに、銀の友人たちに感謝した。


「それでさ、ジョン。これ、スミスたちが入った温泉と同じ水質になるんだって。‥‥肌がすべすべになるから、ジョンと使えって‥ぅわッ!」


 話しながら次第にうつむき、頬を染めた銀を、ジョンは有無を言わさず抱え上げた。


「ちょ、ジョン!?」
「風呂は沸いてるんだよな?」
「いや、そりゃ沸いてるけど、夕飯も出来てるよ!?」
「銀の料理は完璧だからな、俺はあっためるだけでいい」
「俺が動けなくなるの前提だよねそれーッ!」


 銀のツッコミもどこ吹く風で、ジョンは早々にバスルームに到着した。床に降ろした銀の服を、キスの雨を降らしながらさっそく脱がしにかかる。


「ちょっ、待って‥‥待てって、ジョン‥‥!」
「あんなこと言われて、俺が待てると思うか?いつもよりすべすべな肌の銀だなんて‥‥想像しただけでたまんねぇ‥‥!」
「んッ‥‥!」


 顔を上向かされ、唇を塞がれた銀は、恥ずかしさから抵抗して強張った身体の力が抜けていく。ついばまれ、やわらかく吸われるキスに、甘い息がこぼれるばかりだった。


「‥‥‥ン、はぁっ‥‥」
「銀‥‥‥‥な?」


 な?てなんだよ、と銀は思う。普段が結構強引なだけに、ジョンのこういう、たまに見せる甘えたな仕草に銀は弱いのだ。


「‥‥立てなくなるのは困るから‥‥‥加減して」
「了解」


 この、ジョンの了承の言葉が、あまり信が置けないのを知っていても。ここで止めてしまうのは、銀にも本意ではない。
 銀の着ているものを一枚ずつ丁寧に脱がせ、ジョンはふと思い出して問うた。


「そういや、スミスたちの首尾はどうだったんだ?女の子たちと一緒だったんだろ?」
「それが‥‥‥スキーやスノボにはしゃぎ過ぎて、アフターはそれどこじゃなかったんだって」


 答える銀も、ジョンのネクタイをしゅる、と解きながら。それならなおさら、とジョンは微笑んだ。


「あいつらの分まで温泉の効能、堪能しなきゃな」
「‥‥‥うん」


 もうずいぶんと裸に近い格好にされた銀だが、そのままもう一歩、ジョンに近付く。肌を掠めるジョンの指に、もっと触れてほしい。それが銀の、素直な気持ちだから。


「ジョンも‥‥‥ほら、脱がなきゃ」


 でなきゃ、入れないだろ?と小首をかしげた銀に心を撃ち抜かれ、またジョンは彼にキスをする。
 深く、貪るようなくちづけの最中。何処かへ行ったジョンの理性の行方は、当人さえも知らないのだった。




end.

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