楽園の夢
□木漏れ日の夢
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夢から覚めた時、木漏れ日の眩しさに銀は目をすがめた。少し離れた場所では仲間のチビ犬たちがじゃれあったり、それを大人たちが面倒を見て、一緒に遊んだり笑ったりしている。
恐ろしい巨大熊から勝ち取った、犬の楽園。こんな平和な日々に、銀は時折夢を見た。
(‥‥‥母さん。大輔‥‥‥‥)
山の麓に置いてきた、幼い日の安らぎ。今更戻ろうとは思わないが、木漏れ日注ぐ春近い大地に抱かれていると、ただなつかしい‥‥‥そんな思いが込み上げてくる。
「どうした、銀」
名を呼ばれて振り向けば、傍らに一番長い付き合いの友がいた。いつの間に、そこに居たのだろうか。
「ジョン‥‥。ずっとそこに居たのか?」
「ああ。ここは心地いいしな。チビたちが起こそうとしてたから、追っ払ってやったぜ。感謝しろよ。まあ、寝顔を見物させて貰ったからおあいこでもいいさ」
「‥‥ひとが悪いぞ、ジョン。まあ、助かった。‥‥‥‥いい夢を見てたんだ」
寝顔を見られていたのだと思うと、銀は気恥ずかしかったが、何故か悪い気分ではない。だからだろうか、誰にも口にしたことのない夢の話を、ぼろりと零すことになった。
「夢?」
「ああ、小さい頃の夢だ。竹田のじっさまにも貰われる前の‥‥母さんがいて、兄弟がいて、大輔がいて、熊肉なんか食わされることもなくて‥‥‥ホントはあんまり覚えてないのにな、小さすぎて。それでも、夢に見るとなつかしい、って思うんだ」
なんでだろうな?と少し照れくさそうな銀に、ジョンも告白する。自分も、そんな夢を見ることがある、と。
「今がしあわせだからさ、銀。少なくとも、俺はそう思ってるぜ」
「‥‥ジョンの夢って、どんなだ?」
銀に促されて、語られたジョンの夢は、生まれた家での数ヶ月だという。
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