楽園の夢

□トモダチ
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「お前がスミスか。悪かったな、道が混んでて」
「や、充分早いよ。ほら銀、ジョンが来たぜ」


 スミスが呼びかけると、銀はうっすらと目を開け、視界にジョンが映ったのだろう。安心したようにふわりと笑んで、自然に両腕を伸ばしていた。またジョンも、自然にその腕を取り、自分の背中に回させて小柄な身体を抱き上げる。さっさと車へと歩くジョンを、スミスは銀の荷物を持って慌てて追い掛けた。


「すまんが助手席のドアを開けてくれ」
「あいよ」


 スミスがドアを開けると、ジョンは銀のその身をそっとシートに預ける。ゆっくりとシートを倒し、きつくならないようベルトをかけてやると、やっとジョンはスミスに振り向いた。


「世話になったな」
「いや‥‥目ぇ離したスキに呑まされちまってて悪かった」


 お大事に、と銀の荷物を渡すと、ジョンはそれを後部席に乗せて自分も運転席に乗り込む。


「じゃあな」
「おう」


 走り出した車を見送り、またスミスはくくく、と笑う。あんないい男が、田舎から出てきた純朴な青年に夢中になっている。その微笑ましさが、くすぐったくて仕方なかった。
 また同時に、少し羨ましくもあった。スミスも女にモテるし、彼自身も女好きで、色々な子とつきあってきた。けれど。


「‥‥‥あんな夢中になったことあったっけ?」


 そう思うと、勿体ないような悔しいような。男同士なんて冗談じゃない、と思っているスミスだが、不思議とあのふたりには嫌悪感はなかった。


「‥‥ま、俺はヤローなんて冗談じゃねーけどな」


 まあでも、あのふたりならアリだ。というか、銀がしあわせならなんでもいーや、と軽いノリで笑い、スミスも帰路についた。明日、銀をどうからかってやろうか、と思いながら。




end.
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