楽園の夢

□11月11日
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 そんな騒ぎはさておいて、銀はいつものようにスーパーへ直行、食品や日用品を買い足し、お使いに来ていた赤目の道場の、霧風と挨拶を交わす。店内の目立つところにポッキーのコーナーが出来ていて、本当に安いんだな、と思ったが、スミスがくれた分があるので手は出さずにいた。
 ジョンとの同居では、あまりスナック菓子を食べる機会がない。ジョンは甘いものは好まないし、母の手作りのおやつで育った銀には、スナック菓子は馴染まないのだ。気が向いた時に、大学で友人たちと摘むくらいか。そういえば、スミスが気になることを言っていた。


『ジョンとポッキーゲームでもしろよ』


 思い出し、銀は考える。ポッキーゲームとはなんだろう?と。どうやら、赤虎の推測が当たっていたようだ。とりあえず銀は深くは考えず、ジョンに聞けばわかるだろう、と、その件は今夜の献立の外へ追いやった。
 なんといっても、明日は自分もジョンも休みなのだ。一週間の疲れをねぎらいあい、ふたりでゆっくりと過ごすための夕餉。今の銀に、それ以上に大切なものはなかった。


 その夜、ジョンとの楽しい食事も終え、片付けも風呂も済ませるまで、有り体に言えば銀は存在自体を忘れていた。
 夕飯の支度やら何やらで後回しにしていた、通学用にしているリュックサックの片付け。中から出てきたそれを見て、ようやく思い出したのだった。


(あー、忘れてた。‥‥‥うーん、思い出すと気になるなあ‥‥。ジョンが風呂から上がったら訊いてみるか)


 リュックの整理を終えた銀は、ポッキーの小箱を手にリビングへ向かう。ラグの定位置に座り、適当にテレビなどつけるが、内容はあまり頭に入っていない。ジョンまだかな、まだかな‥‥とそわそわしているからだ。学祭のDOG CAFEでつけたような、くるんと巻いたふさふさのシッポが彼にあったなら、ぱたぱたと可愛らしく左右に揺れていただろう。
 やがて、バスルームの扉が開く音がして、ジョンがリビングに歩いてくるのがわかる。テレビを消して銀は、わくわくと彼を待った。




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