楽園の夢

□ある休日
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 沈黙を破ったのはジョンだ。彼はある程度は、道行く女性を品定めしていたのを否めない。なのに、健康そうでジョンより若いGが、女性に徹底して興味を示さないのが逆に面白いような気がした。


「その容姿なら、よりどりみどりりじゃねぇのか?」
「‥‥‥俺はこう見えて、一途なんスよ」


 それだけです、とGが、長く煙を吐く。ジョンは一瞬目を丸くして、次にふ、と息を漏らした。


「大事な相手がいるってことか。そいつぁいいな」
「あなたにはいないんですか」
「そうだなあ‥‥」


 ジョンは灰皿に吸い殻を押し消すと、新しい煙草を出す。ジョンも異国の血を引いて、彫りが深く、整った容貌をしている。軽くトン、と1本浮かせて、咥えて火をつける、一連の仕草が欧州の映画のように絵になる彼こそ、よりどりみどりなんじゃないかとGでさえ思った。


「‥‥正直、いろんな女とつきあったし、キープしてる女もいるよ」


 だが、本気になったことは一度もない、とジョンは、何処か遠い目をして言った。恋なんてのは、こんなものか、と。


「‥‥‥恋してる、っつーか、ただヤッてるだけって気もしてな」


 なんかつまんねぇ、とまで言うジョンの横で、Gも2本目の煙草を取り出す。ジョンがバイト先の客であり、そう親しいわけでもないので口には出さないがGは、恋愛に面白いとかつまらないとかあるのか、と思っていた。
 何故なら彼にはそれは、物心がついた頃には既に傍らにあって、隣りにいるのが当たり前な存在への思いだからだ。面白いとかつまらないとかじゃない、理由や理屈ですらない。自分にはこいつだけだ、こいつにも自分だけのはずだ、という、確固たる思い。胸の奥に刻み込まれた面影は鮮やか過ぎて、他の誰かなんてまるで目に入らない。Gは、ずっとそういう恋をしていた。
 恋人のやたら鋭い直感ではないが、ジョンがそうした恋愛とは無縁なようにも、Gには思われなかった。




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