楽園の夢

□ある休日
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 それはまだ、ジョンがマンションで一人暮らしをしていた頃のことだった。
 秋の休日、何人いるか自分でもわからない女友達にも声をかける気にならず、ジョンはただ天気がいいので、ぷらぷらとその辺を散歩していた。そうして、あまり利用したことはなかった近所のスーパーに出る。
 外に喫煙所があるのを見てとり、一服していくか、とそちらへ足を向けたのは、ほんの気まぐれ。ベンチに腰掛け、煙草に火をつけ、フゥ、と煙を吐く。とかく昨今、愛煙家は肩身が狭い。こうした場所は気持ち的には、砂漠の中にぽつりと現れた、オアシスにも似ていた。
 そんなオアシスに、またひとり誰かがやってくる。紅い髪、顔の右側に入れた炎を模したようなタトゥーが印象的な、異国の青年。偶然にもジョンは、その青年に見覚えがあった。また、青年の方もジョンを覚えていたらしい。


「‥‥‥あ、」
「‥‥よぅ」


 その青年は、ジョンが行きつけにしている、BARのバーテンダー。名前は確か、Gといったか。


「なんだ、この辺に住んでんのか」
「‥‥はあ」
「なんかいたたまれねぇってツラすんな。今は客と従業員じゃねぇだろ」


 ジョンの物言いはぞんざいだが、つまりは遠慮するなと言っている。煙草呑み同士、伝わるものがあったのか。Gは唇の端を上げ、それじゃ、とベンチに座る。煙草と火種を出すGの手元がジョンの視界に映り、あまり知らない銘柄だなと、なんとなく思った。しばらくふたり、無言のまま並んで煙草をふかす。
 ジョンもそうだが、Gも長身で男前ときている。喫煙所の前を若い女性が通りがかるたび、ちょっとした歓声を上げたり、頬を染めたりしながらふたりを眺めていくのだが、Gはまったく興味なさげに、そちらを見もしないのだ。


「‥‥あんま堅物そうにも見えねぇんだがな」




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