Main

□どうしよう好きみたい
1ページ/1ページ



『…それじゃあ、本の返却は2週間後までにお願いします。』


3年目にもなれば慣れた作業をしながら、いつもの台詞を利用者に向ける。

最後の利用者が図書室を出て行くのを確認して、少し息をついた。



今日はもう人は来ないかな?
だってあと20分ぐらいで最終下校時刻だもんね!

冬になり時間が過ぎるのが早くなった気がする。ついさっきまで夕日に暖かく照らされていたはずの部屋は、もう暗闇を帯び始めていた。



『私もそろそろ帰らなきゃ…』


今日はお休みの司書さんに代わり、椅子を整え戸締まりを確認していたときだった。

図書室の扉がガラリと開き、誰かの入室を告げた。


扉の方を振り返って見てみると、クラスメートでテニス部の柳くんだった。


『あれ、柳くんどったの?』


「名字たんか。ああ、今日は名字たんが図書当番だったな。」


『そうだよ。あ、もしかして返却かな?』


どうやら返却期限が今日までの本を返却に来たらしく、手元に数冊の本を持っていた。



「最終下校時刻ギリギリにすまない、手続きは大丈夫か?」


『あ、うん。すぐ終わるから大丈夫だよ。』


カードにサラサラと日付を書き込み、本を返却用のカゴに入れる。
…柳くんじっと見られてると恥ずかしい上になんだかやりずらいです。


数冊だから少し手間取ったけど、何てことはなく数分もかからずに終わった。




「作業はそれで終わりだな?」

『うん、これで終わり。柳くんは時間大丈夫?待たなくてもよかったのに…』


テニス部の練習が遅くまであるのは知っている。きっとハードな練習で疲れているのに、待っててくれた柳くんは優しい。



「ああ。それにギリギリになって来て名字たんにやらせているのに、帰るわけにはいかないな。」


『図書委員の仕事だし、気にしなくていいのに。優しいんだね。』


実はクラスメートと言っても、これまであまり話したことはなかった。

図書委員の仕事で話すぐらいで、実質はないと言ってもいいぐらい。



「優しくなんてないさ。それより急がないと、時間がないな。」


そう言われ腕時計を確認すると、あと5分ほどしかないことに気づいた。


『うわ、ほんとだ…!ごめんね柳くん。』


「そう何度も謝るな、悪いのは俺なのだから。さ、行こう。」

さっと私の荷物を持った柳くんは、まるで紳士のように私をエスコートしてくれた。気遣いがさりげなくて、すごく嬉しかった。



『うー、寒いねぇ。もうすっかり冬って感じで。』

「そうだな…俺のデータでは明日雪が降る確率75%、といったところか。」

『え、本当に?でもこれじゃあ今日降ってもおかしくないよー。』


寒い寒いと呟きながら、柳くんの隣を歩く。柳くんの隣はすごくドキドキしてしまう。


『あ、じゃあ私は電車だからここでさよならだね。』

「そうか、じゃあ気をつけて帰れよ。」


あっと言う間に駅に着いてしまい、なんだかすごく惜しかった。最近、ほんとに時間が経つのが早いなあ。



「…ん?」

『あ…!』

急に柳くんが上を見上げる。
柳くんにつられて空を見ると、真っ白な雪がチラチラと舞い降りてきた。


『柳くん柳くん!雪だよ!綺麗だねー。』

「ああ。…フッ。」

『?どうかした?』

「いや、俺のデータを越えてお前の言うことが当たったな。」


そう言ってまた微笑む柳くんはとても綺麗で、雪よりも美しかった。



「それではな。今度こそ気をつけて帰れよ。」


私の頭にポンと手を乗せ、柳くんは帰路についた。私はその場でじっと柳くんを見つめる。




あ、やばい。


柳くん、私、





どうしよう好きみたい

(うわ、わ、)
(意識させることは成功、か?)






―――――――――★

確信犯な柳さん。


お題は
「確かに恋だった」様より。

ありがとうございます!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ