怪盗キッド

□第四章
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 私と快斗は、夜の闇の中、アリスとキッドの格好をしたままアキが教えてくれる場所を目指し歩いて行く。
失敗するかもしれない不安が私の心を締め付ける、でも失敗するわけにはいかないのだ…。

キッド「アリス嬢、大丈夫ですか?
気を楽に…と言っても無理かもしれませんが、少し力を抜いては如何でしょうか…」

ピリピリと殺気立って居るかのような私に、キッドは心配そうに話しかけてくる。

『フフフ…駄目ですね…。ポーカーフェイスは出来ていても、雰囲気でも不安や…恐怖を表に出したくないのですが…』

キッド「貴女のポーカーフェイスには私も負けますからね、貴女はどうやれば気が抜けるんでしょうか…、隣からピリピリと刺さる殺気が結構痛いんですよね」

クスクス笑いながら言うキッドだが、私の肩の力は入ったままで、キッドに負担をかけたくないのに…と内心落ち込んでくる。

『そうです…ねぇ…。昔は苛立っていた時には歌を歌っていたと思うのですが…』

キッド「少し歌って見ては?この辺で待っていれば名探偵は現れるとアキも言ってますし。名探偵が違う所に行っても、アキが教えてくれますよ」

キッドの声が、私の心を落ち着けてはくれているのだが、それ以上に心配や、不安、恐怖が多すぎて苛立ってしまうのだ。
キッドの言うように、確かに落ち着けるようにとした方がいいかもしれない…。
こんなに殺気立ったまま、工藤新一に接触しても彼も警戒しかしないだろう…。

『では…、私が苛立った時、貴方に会いたいと思いながらもその願いが叶えられず、心を落ち着けていた歌を…歌いましょうか…。』



 ゆっくりと息を吐き、何度も深呼吸のようにするアリスに、俺の背は電気が走ったような感覚を覚える。
初めて出会った時は、潰してやるとか思っていたのに。
歌うために集中し始めたアリスから目を離せなくなる。


『トゥエ レィ ズェ クロア リュォ トゥエ ズェ

クロア リュォ ズェ トゥエ リュォ レィ ネゥ リュォ ズェ

ヴァ レィ ズェ トゥエ ネゥ トゥエ リュォ トゥエ クロア

リュォ レィ クロア リュォ ズェ レィ ヴァ ズェ レイ

ヴァ ネゥ ヴァ レィ ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ

クロア リュォ クロア ネゥ トゥエ レィ クロア リュォ ズェ レィ ヴァ

レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ』


アリスの銀の髪が、風に舞い上がりながら歌う姿に、俺は完全に魅せられていた。
歌い終わり、目を伏せていたアリスが瞳を開ける。
だが、完全に魅せられていた俺は後ろに人が居る事に気付かなかった。

『こんばんは、名探偵さん。頬の腫れは引いたようですね。』

新一「…っあぁ、おかげさまで、な。
お前らは何でこんな所でコンサート開いてるのか聞いてもいいか?」

少し慌てたような名探偵が、アリスへと声をかけるが、俺と同じで魅せられていたのだろう。
動揺しているのが手に取るようにわかってしまう。

『別にコンサートのように人に聞かせる為に歌っていたのではありませんよ。
貴方に会うために、貴方に伝えたい事があった為に、貴方に警戒されぬよう、殺気で溢れた私を静めるためにここで歌っていたのですよ、名探偵?』

新一「話をする為に殺気立つとは、穏やかな話しじゃねーな…。二人で俺を待ち伏せして…何の目的だ?」

キッド「目的というほどの事でもありませんけどね…。貴方に危険が迫っている可能性が高いと、アリスが言いましたので。
私としても、アリスから聞いた貴方の未来が他人事では無かったので、二人で会いに来たのですよ。」

俺の話を聞きながら、まったくと言って良いほどに信じて居ない名探偵に、少し失望をしながら俺は話しかけ続ける。

キッド「貴方の危険は、アリスの話しではさほどの心配も無いのかも知れません。ですが、ここで貴方に気をつけてもらっていれば、悲しむ人が減る可能性が高いのでね」

新一「それは…脅しか?」

『いえ、事実を述べたまで。
私は貴方の未来を少しだけ見たのですよ。どこぞの占い師では無いのですけど…、貴方が心悩ませる事も見ました。そして、貴方を思う人が貴方が思う人が、悲しみを隠しながら、貴方は追い続け、そして追われていた。』

新一「そんな何の信憑性もない話をする為だけに来たって言うのか…。」

『はい、その為だけ…ではあります。』

新一「お前らは俺に何を望む…?」

キッド「ただ、貴方の思う相手と遊園地に行く事がこれから起きるので、その時に黒い服の男について行かぬように…と」

名探偵は、俺らを疑っている。
それはそうだろう、つい先日に宝石を目の前で奪い、冷かしまで入れて去ったのだから。

『それと…もしも…、もしも追うことを決めてしまうのならば…一度だけ電話をかけていただけませんか…』

新一「は?追いかけるなって言いたかったんじゃねーのかよ」

キッド「貴方は追いかけるな、と信じて居ない私たちに言われ、本当に信じるので?」

新一「いや…、実際そんな事が起こらないって思ってるから、根本から信じて居ない、としか言えないな」

『それは…そうでしょうね…。
ただ、電話をかけるだけで良いのです。
もしかしたら、悲しい運命を逸らす事が出来るかもしれない…』

そう言いながら、アリスが一枚のトランプを名探偵に差し出すと、受け取らないだろうと俺は思っていたのだが、名探偵は気にせず受け取った。

新一「もしも…お前らが言う事が本当かもしれないなら、もう少しだけ詳しく話せ…」

『え…えぇ…。
そうですね、貴方の思い人…空手の強い思い人と共に遊園地に行くと、貴方は事件に巻き込まれ、その事件を解いた時に…怪しい人物を見つけます。
貴方はその人物を追い、気付かれ、命の危険に巻き込まれていく…』

新一「お前らが…そいつらの仲間じゃない証拠は?」

キッド「残念ながら、ありませんよ。
貴方が今言った事を回避したのならば…次に会う時には敵同士、怪盗と探偵に戻るだけなのですから…」

新一「わかった。お前らの言う事を少しだけ信じてやる。だが、蘭に手を出してみろ、お前らを絶対許さねーからな…。」


 名探偵は、俺達を睨み付けると方向を変え去って行った。

『月夜の紳士さん…?どうなるんでしょうか…。彼は…信じてくれたのでしょうか。』

キッド「私には…わかりませんね。彼が信じて、未来を逸らせば敵としてしか会う事は無いでしょうが、どうしても彼が未来を逸らす事を願ってしまいますね…。」

アリスは不安に揺れているだろう顔を俯け、俺に安心する為の言葉を求めてくる。
というか、こいつ…前までと全く違う態度すぎて俺もやりづらい…。
俺に気を許してくれたからか、それとも俺と似たあいつの心配で…何も考えて居ないのか…。

キッド「さぁ、アリス…。しばらくは怪盗はお休みになるかもしれませんね…」

『フフフ、お休みになるかも、ではなくお休みにしますよ。あぁキッド、貴方もこの携帯を持っておいて下さいね。
彼が、もしも電話をかけて来てくれたなら、私の持つ携帯と貴方の持つ携帯、両方にかかるようになって居ますから。
かけた人の電波を常に拾い続け、その人が居る場所までナビまでしてくれるようにしてありますよ』

キッド「貴方は…どこでこういう物を手に入れてくるんですか…。常々貴方は恐ろしいですね…」

『ウフフ…手に入れるのではなく、作っているだけですよ?』

アリスはそう言うと、今まで歩いて来た道のりを戻り始める。
俺の手には、アリスから渡された携帯があるまま…。
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