明智健悟

□早く帰って来て!
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「こりゃあ大雨になっても文句言えねぇ天気だな…」


警視庁捜査一課の刑事たちが溜め息混じりに呟いた。
こんな天気では何となく気分も落ち込む。
ただでさえ仕事が多くてどんより気分なのに、更に追い打ちをかけられたようなものだ。

その中で、明智だけが相変わらず涼しげな顔でパソコンに向かっていた。


「……」


刑事たちの話が終わって各々が席に着いた頃、明智は初めて顔を上げて窓の外を見た。

確かに真っ黒な雲が辺りを漂っている。
そう言えば今日は降水確率が90%で、いろいろ警報が出ていたはず。


「…まずいですね」


明智は今の仕事を片付けるため、ピッチを上げて取り掛かった。



─────。

「すみませんが、今日は早目に切り上げます。後は頼んでいいですか?」

「あれ、警視今日は何か用事でも?」


出来上がった資料を明智から受け取る剣持。


「…えぇ、まぁ」


眼鏡を少し上げて返答に困る仕草は、明智の最近ついた新しい癖。


「…早く帰ってあげてください。今日のは俺が仕上げておきます」

「すみません。それでは失礼します」


急いで出ていく明智の後ろ姿を見て、剣持は一人微笑んだ。


「…さて、警視が帰るまでに如月君の気力が持つかねぇ……」


────。

愛車をスピード違反に引っ掛からない程度に飛ばし、自分のマンション、いや、凜華の待つマンションへと急ぐ。
その間にも天気は悪くなる一方で、雨が激しく降ってきた。
遠くで雷も鳴っているらしい。


「……チッ」


こういう時に限って無駄に信号に引っ掛かる。
明智は滅多にしたことのない舌打ちを2〜3回してしまう程に焦っていた。


「凜華…」


マンションに一人自分の帰りを待つ凜華を思い浮かべては、その華奢な体を早く抱き締めてやりたいと思った。
やっと信号が青になり、再び愛車を飛ばす。
そこの角を曲がればマンションが見える。
あとは、例のアレが自分が帰るまでに酷くならなければいい。




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