高遠遙一
□大切だった 前編
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どこまでも続く水平線。
静かに海を進む船に凜華はいた。
いつも隣にいる人はいない。むしろ黙って出てきた。
喧嘩をした訳じゃない。
これがあの人の為になる。
それなら私はこれで良かったって思えるようにするから。
…これで良かったんだよね?
高遠さん…。
ちょっとだけ雲がかかった、晴れた日だった。
仕事だからと高遠さんは出ていってしまっていて、今はいない。
滞在日数が残り僅かのオーストリアを、1人で満喫しようと凜華はカフェテリアへ立ち寄った。
「メランジェとザッハートルテをお願いします」
入った店は時間帯が良かったのか、観光客も少なく、落ち着いていて店員の愛想もよかった。
「(高遠さんも一緒に来れたらゆっくりお茶して、それからカツレツ制覇したのにな)」
そんなことを思いながら杏ジャムの入ったザッハートルテを口に入れた。
「…ほんと本場は甘いわ」
そんな事を呟いた時
「ご一緒しても?」
久しぶりに日本語を聞き、ぱっと顔を上げると顔立ちのいい男性が自分の向かいの席を指していた。
「ど、どうぞ…」