高遠遙一
□聞こえたから
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「……ん」
ここはどこだろう?
いつの間にか高かった日は傾き、地平線に差しかかっている。
…おかしいな、買い物の帰りだったはずなのに。
…あれ、手が動かない。
どうやら拘束されているらしい。
まさか誘拐?
────荷物は?
ない。肝心の携帯は鞄の中だ。
これじゃあ電話もメールもできない。
……取り合えずここがどこか確かめなくちゃ。
早くしないと…。
高遠さんが家で待っているのに。
私が帰らないと、今夜中に一緒にイギリス行きの飛行機に乗れない。
凜華はなんとか立ち上がり、自分の居場所を確認した。
…場所はすぐ分かった。
「今の」自宅から少し離れた、今は使われていない廃墟ビル。
でも何でこんな目に遭っているのかが分からない。
「よぉ、如月凜華サン?」
ふと名前を呼ばれた。
見ると、複数の男が部屋に入って来ているところだった。
「……」
軽く男たちを睨みつける。
「いきなりご挨拶な表情だな、如月サン」
「…当たり前です。何でこんな目に遭ってるのか見当もつきませんから」
「(あくまで冷静に、でも相手の機嫌を損ねたらお終いですよ。貴女は女性なんですから無茶は禁物です)」
以前、高遠さんが言っていた言葉が頭をよぎった。
「(…分かってます、高遠さん。でも今はとにかく腹が立つんで冷静に相手の機嫌損なわせそうです)」
「なるほど、自分がコッチの世界で通用する美人だって知らないって事か」
「コッチの世界?」
「凜華ちゃんなら高くつくし、実際結構稼げるんじゃないかな?」
あぁ、私の身を売ると言っているのか。
「私には値段なんてつけられませんよ。プライスレスですから。あと馴れ馴れしく名前で呼ばないで、反吐が出るわ」
「ふん……なかなか口を利く女だな。先に黙らせなきゃダメらしい」
やっぱり私の減らず口は災いした。