高遠遙一
□攫ってあげる
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イギリスに住むお嬢様設定。
御題はSeventh Heaven様より。
「では、一週間後に」
「…はい」
今縁談の取り決めが終了した。
一週間後、私はこの家に嫁ぐことになる。
「じゃあな、凜華」
彼の目に映る私は、一体何なのだろう。
少なくとも、私から彼への愛はない。
ただの政略結婚。
私の自由は奪われた。
─────。
「凜華お嬢様、お食事の時間でございます」
部屋のドアがノックされ、執事が部屋に入ってきた。
「ごめんなさい、今日は体調がすぐれないからこっちに運んでもらいたいのだけど…」
「かしこまりました。少々お待ちください」
パタン、とドアが閉まってからふう、と溜め息を吐いた。
もちろん、体調がすぐれないなんてのは嘘。
ただ部屋から出たくない。
この遠くまで見渡せる綺麗な景色を見られるのは今しかないなら、ずっと見て目に焼き付けておきたいだけ。
「元気がないですね」
「…ぅえ!?」
窓の外から声が聞こえた。
ここは2階なのに、何故。
それに不抜けた私の声。
「失礼しました。元気がない、そんな貴女にちょっとしたマジックをお見せしようと思って来ました、地獄の傀儡師です」
「マジック…?地獄の傀儡師…?」
不意に現れた仮面を付けた地獄の傀儡師と名乗る男性は、窓の近くの木に腰かけていた。
あぁ、この木に登って…と納得。
その間にも彼の手の中で、トランプが華麗に動いている。
「───さて、このトランプをこうやって左手に押し込めて3つ数えると、一体何に変わるでしょう?」
「えっと…何だろう?」
こんなとこからまさかハトは出ないだろうし…小鳥?それとも紙吹雪?なんて私は大真面目にセンスのない答えを堂々巡りしながら考えていた。
「では正解。」
次の瞬間、彼の手から顔を覗かせたのは紅い薔薇だった。
「わあ……!」
「血のように紅い薔薇を、可愛らしい貴女に」
「ありがとう…!」
お礼を言って、それを彼の手からもらう。
本当に血のように紅い薔薇だ。
「喜んでいただけて光栄です」
恭しく会釈をする彼。
突然の来客、しかも正式な訪問ではないが、いいものを見せてもらった。