高遠遙一
□愛しい君のために
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「ただいま帰りました」
最近言うようになったこの文句。
本来ならば「おかえりなさい」と返してくれる相手がいるのだが、今日に限ってそれがない。
「凜華、いないのですか?」
そうは言いつつもいるのは分かっている。
不用心なことに鍵は開いてるし、凜華の靴もきちんと並べてある。
そこで高遠はリビングへと足を進める。が、リビングは真っ暗で人の気配はなかった。
「となると…」
残るは彼女の部屋。
「凜華、中にいますね?」
ドアをノックして呼びかけてみるが、中から返答はない。
「…開けますよ」
そう言って中に入ると、当の本人は机に突っ伏して眠っていた。
どうやら本を読んでいたらしく、読んでいたらしいページが開かれたままだ。
「全く、貴女という人は……。───凜華、起きてください。凜華」
そっと肩を揺すってみる。
「んー…?」
「こんな所で寝たら体を冷やしますよ。それに夕食の支度もしないでいるんですから、これから作らなくては」
「んー…」
「…仕方ないですね…」
返事がこれしかない時は熟睡している証拠。しばらくは起きないだろう。
高遠は自分の着ていた上着を凜華の背にかけると、頬に軽く唇を落としてそっと部屋を出た。