story

□消えそうなこの自分を
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「文次郎」
「んー」
「もし私が突然居なくなったらどうする」

何を考えているか分からない仙蔵が、また変な事を言い出した。

「探す」
「何処を」
「世界中をだ」
「本当にそんな事出来ると思っているのか」
「根拠は無いが今なら探すな」
「そうか…」

自分の毛先を弄びながらまた口を開いた。

「私が居なくなって、尚且つ私に関する記憶が全て無くなったらどうなると思う?」
「どうなる、か」

ふと横目に仙蔵の顔を見れば、腕で顔を覆い隠していた。

「文次郎、早く答えろ」
「分かってる」

隣の部屋の小平太がまた騒いでいる。それに比べ俺達の部屋は居心地が悪い沈黙が続いていた。

「多分違和感だらけだ」
「違和感?」
「まあ何か変だな、って思うな」
「…違和感…か…」

何かまずい事を言ったのか仙蔵は何かを一人呟いている。

「私も…そうだな…」

ひっそりと聞こえた言葉は俺に聞こえてしまったのか聞かせたのか。

「文次郎、明日何か奢ってやろうか」
「いきなり何だよ」
「嫌なら別にいい」
「いや…行く」
「ならなるべく安いのにしておけよ」

だったら奢るとか言い出すなよ、と喉元まで出かかったが止めた。仙蔵が笑っていた為に。

「さて、私はもう寝る」
「ああ…俺も寝る」

灯を消し、闇の帳が降りた部屋は何故か居心地の悪さが消えていた。
仙蔵の呼吸が聞こえ、それに同調する様に俺も眠りに着いた。





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