江戸っ子奮闘記
□第八章 村長の悩み
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先に進むにつれて足元が泥濘るんできて歩きにくくなってきた。
しばらくするとついにルークが深い溜め息を吐いた。
「ここ、すっごく歩きにくいですね。もう靴がグチョグチョです…」
「村の外れともなると、踏み固められていない地面ばかりだね。靴で泥団子ができそうだ」
「いやそれどういうことだし」
「レイカ、記念に顔形でも付けていくかい?手伝うよ?」
「い、いえ、結構です。靴で泥団子作ります…」
「村長さん、この辺りで転んだんでしょうか?」
「恐らくそうだろう。転んだ形跡がないか、この一帯を探してみよう」
探す間もなくみんなは目の前にある、くっきりと地面に印されている村長さんの全身の型に注目し始めた。
あたしはそれよりも近くに咲いている大きなラフレシアに目がいった。
以前モンテドールの友を待つ宿で後ろから押されて顔から突っ込んだ忌まわしいラフレシアを思い出す。
ん?このラフレシア、花びらに足跡が付いて…
もっとよく見ようとラフレシアに近付くとふいに背後に気配を感じた。
サッと振り返ると先生がいて同じくサッと両手を後ろに隠した。
この野郎…同じ轍を踏んでたまるか!
「ふん、そう簡単に何度も花に突っ込むと思ったか…!」
「そうか、それは残念だ」
そう言いながら先生はニコニコしたままさらに距離を詰めてきた。
その様子にビビり、先生が近付いてきた分だけあたしは後退りした。
それも先生の思惑とも知らずに。
「ちょ、失敗したならジリジリよって来るのやめ…のわぁぁ!」
「ルーク、よく見てごらん。ラフレシアに足跡があるよ」
「ええっ、足跡ですか?」
泥濘に足をとられ、ラフレシアへ背面からダイブ…する寸前に先生に左手を掴まれ服が泥だらけになることは回避できた。
だが一向に起こすところまでは引っ張ってもらえず先生の右腕にしがみついている状態だ。
にも関わらず完全スルーで話を続ける先生とルーク、興奮気味にシャッターを切るレミ。
そして引き気味のサーロインさんがアーリアの視界を両手で覆っていた。
「村長さんはここで足を滑らせて転んでしまったのだろう」
「本当だ!それにこのラフレシア…ちっとも臭くないです!こんな事ってあるんですね」
「自然は時に、私たちの予想を遥かに上回るものだよ」
「あたしにゃあんたの行動がいつも予想の遥か斜め上だよ!」
せめてもの抵抗に共倒れする覚悟で全体重をかけて腕にしがみつくが先生は微動たりともしない。
くそ、これはあたしの体重が軽いのか先生が細マッチョなのか…いや、絶対前者に決まってる!
「他にも村長さんの身の回りで変わったことはないか調べてみよう」
「ここはもう調べなくていいんですか?」
「真実を見つけるには多角的な調査がモノを言うのさ。さぁ、村へ戻るよ」
「おい!早く起こせや!」
「それが人にものを頼む態度かい?」
「すみません、心優しいお方、腹筋プルプルの私をお助けください…」
最初からそう言えばいいのにと先生はあたしを引っ張り起こした。
…決めた。
絶対今回の旅で先生よりも先にナゾを解いて見返してやる!
先を行くレイトンの背中に向かって秘かに闘志を燃やすレイカであった。