フィヨルディア

□第2話:愉快な仲間達
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〜愉快な仲間達〜



「……か…!…べーにか!起きてよ、紅華!朝だぜ!」
「うーん…その声は……バカ?」
「バカじゃない、仄!悪魔の仄だって!まさか、もう忘れたとか!?」
「朝っぱらから、うっさい悪魔ね…。何?何かイベントでもあるの?」
「いや、ないけど…規則正しい生活しないと、体に悪いぜ?」
「悪魔に言われたかないわ…。何もないなら、もう少し眠らせてよ…あんた、私に快適な生活させたいんでしょ?私は今、眠りたいの…」
「え〜…」

私がここに来てから、一晩が明けた。昨日聞かされたけど、この世界の時間は、現実世界の時間の進み方と変わらない。一日は二十四時間で、朝もあれば夜もあるし、季節もある。現実では仮死状態と言えども、この世界で時間が経てば眠くなるし、お腹も空く。食事も案外普通で、シェフ(悪魔)が作る料理は普通に美味しかった。ただ、この馬鹿デカい屋敷が世界の全てで、外と言うものは存在しない。と言っても、ベランダや、相当な広さの中庭があったりするから、日は浴びられる。通貨などはなくて、屋敷内にある売店や喫茶など、様々な施設を自由に使用する事が出来る。その他に必要なものがあれば何でも言えと言われたが、外がないこの世界で、一体物資はどこから仕入れてるのかは不明だ。

「………はぁ…もういいや、なんか目が覚めた…」
「ホント?やった〜」
「ところで、あんた何勝手に女の部屋に入って来てんの?」
「……!!」
「ギクッとしてんじゃないわよ。部屋に忍び込む暇があったら、目覚めの紅茶くらい用意したら?」
「は、は〜い…」

気の利かない悪魔だ。いや、そもそも気の利く悪魔って言うのも、何かおかしい気がするけど。でも茉莉は、執事みたいなものだと言った。だったら、気を利かせろと言うのも、間違ってはいないはずだ。実際、専属の悪魔は身の回りの世話をし、生活のサポートをするとも言っていたし。何かあれば専属の悪魔に言うようにと、部屋も隣同士にされている。震える手で紅茶を持って帰って来たこの馬鹿悪魔に、執事役が務まるのかは怪しいが。

「っていうかさ〜、紅華、順応早過ぎじゃない?ここに来た人間って、大抵もっとテンパるよ?」
「テンパったって仕方ないでしょう。車に盛大にはねられた記憶はあるんだし、仮死状態って言われても納得するわ」
「いや、仮死状態を納得してもさ、普通悪魔とか信じる?」
「本人が悪魔だって名乗ってんだから、悪魔って呼ぶしかないでしょう」
「…ふ〜ん…なんか紅華って…」
「冷めてる、でしょ?よく言われる」
「うん、冷めてる。いいと思うな、そういうの!」

キラッキラ目を輝かせて言われ、一瞬紅茶を飲む手が止まった。冷めてる、とよく言われるが、それは褒め言葉じゃない。欠点として挙げられる言葉だ。クールと言えば聞こえはいいが、私に向けられる《冷めてる》は、一度も良い意味で使われたことはなかった。それは自分でも自覚していることだし、それが原因でイジメにあったとかいう経験もないから、直そうと思ったことはない。近寄り難いとは言われても、友達は何人かいるし、人とのコミュニケーションはそれなりにとれている。だから、初めて冷めてることを『いいと思う』なんて言われてドキッ、なんてベタな展開にはならない。ただ、真っ正面からそんなこと言ってくる物好きに、ちょっと面食らっただけだ。

「あ、そ〜だ。何か俺に訊きたい事とかある?」
「訊きたい事って?」
「昨日、この世界について大雑把には説明したけど、まだわからない事もあるだろうから色々教えてやれって、茉莉ちゃんに言われたんだ。ね、なんかわからない事ある?」
「そうね……じゃあ、悪魔の事」
「俺?」
「あんた限定じゃなくて、悪魔全般についてよ。人を惹き付けるとか、魂を食べなきゃ死ぬとか、それくらいしか知らないから。結局悪魔って何?って状態なの」
「そっかそっか。んじゃ〜、悪魔についてザッと説明するか!」

教えられる事が出来たからなのか、何だか妙に得意げだ。まるで子供のように単純な奴だと思う。そう思って、こいつじゃなくて茉莉に訊いた方が良かったと気付いたが、もう今更だ。咳払いして説明する気満々のところを、やっぱりいいやなんて言うのも気が引ける。何より、そんなこと言ったら騒ぎ出しそうだ。
 
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