ノット・レストインピース
□6,隠し事の予兆
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白黒に分けられた盤上で、白黒の駒が踊っていた。
黒の駒――僧正(ビショップ)が動き、斜め右上にあった白い歩兵(ポーン)を弾く。
ころりと転がったポーンを摘み上げたロウは、駒を動かしていないもう片方の手で教科書を捲っていた。
「だからさ、ブリゴキンはバトル向けとは言われているけど、さほどそうでもないと思うんだ」
現在自分が行っているチェスとは一切関係のない事を口にして、眼前で動かされる白の駒を眺める。ちらちらと横目で盤上を窺いながら、興味なさげに教科書を捲ってはページの端を撫でた。
「あれは防御や攻撃速度じゃなくて、大体数で押し切る戦法になるよ。それはそれで戦法の一つだから良いんだろうけど、俺にはちょっと向かなかったかな。
前に一度プク相手にブリゴキン二体で挑んだんだけど危うくやられそうになっ……うわ、ナイト取られたよ」
相手の手で排除されていく自らの駒を目で追って、ロウはうげ、と顔を顰めた。
教科書片手に、ブリゴキンの話でもしながらチェスをするなとそういうことだろうか。んん、と唸りながらロウは机を挟んで座る彼を見た。
「……っていうか、カズキ話聞いてる?」
「ああ、聞いている」
「聞いてないよね」
「だから聞いている。ブリゴキンの話だろう?」
あ、聞いてた。ロウが呟くと、色素の薄い髪と目を持つ彼は少し不満げに眉を顰めた。
「確かにキミは数ではなく、レベルとサイズ、そして相性全てを鑑みてキンを選ぶタイプだからブリゴキンは合わないだろうね」
「そういう事」
こつん、と音を立て、ロウは黒の塔(ルーク)でカズキの白いビショップを弾く。
それを拾い上げて脇に置いたときには、カズキは既に他の駒を動かしていた。
「相性さえ勝っていれば、レベルの差なんてある程度巻き返せる。
レベル70を越えた恐ろしきクリスターリアも、同じLサイズでヴェールのキンなら慎重に叩けば倒せるし」
黒い駒が動く。
「経験則かい?」
白い駒が動く。
「そう。ちなみに俺が使ったのはぴよりキンだ。防御力もある程度高くて、尚かつヴェールだ。
ちなみにMサイズになるけどマリオネもおすすめだ、技玉バトルならオヤスミンが使える」
また黒い駒が動く。
「なら、Sサイズのゴーストキンも結構いいんじゃないかな。オヤスミンが使えるという点では同じだし、ロウは苦手だろうけど数で押せる」
「そうだね、レベルがある程度高くて、かつ技玉バトルだったらゴーストキンもオススメだ」
ロウとカズキは、饒舌に話し合いながら駒を動かし続ける。