ノット・レストインピース

□6,隠し事の予兆
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「個人的に、キンのレベルは確かに大切だけど、レベルを上げればいいって訳ではないと思う。
 レベルが高くても、くりキンでクリスターリアに挑んだら死にに行くようなものだよ」
「…………なあ、ロウ」
「うん?」

 不意に自分の名を呼んだカズキの双眸が、白と黒の盤面を見据えていた。
 適当に捲っていた教科書から目を離してロウも盤上を見る。
 そして、理解した。
 カズキの女王(クイーン)が、自分の王(キング)を狙っていた。丁度クイーンとキングが直線上に並んでいる。

「あ、ちょ、待っ」
「待たない。チェックメイトだ」

 冷たく切り捨てられ、カズキのクイーンが動く。かつん、と澄んだ音を立てて黒のキングが倒れた。
 倒れたキングの駒を見ながら、ロウは表情を曇らせる。

「また俺の負けか……カズキ本当にチェスやった事なかったの?」

 このチェスセットは、自分が部屋から発掘して面白くなったから学校に持ち込んだものだ。ナノアイランドにはチェスという遊びがなかったらしく、皆が――それこそヤマナカ先生まで目を輝かせていた。
 というわけで皆に貸してみたのだが、一週間もすると皆チェスが難しかったのかやらなくなってしまった。
 ロウとしてはメグミやダイスケ達ともチェスで対決してみたい訳だが、本人達が「結構難しいの」「そもそもどの駒がどういう動きをするのかが全く分からん」と首を振っているから無理だ。
 だから教室内でチェスをするとなると相手がカズキしか居ないわけだが、彼がどうにも強い。
 しかしそれでいて「チェスは初めてだ」というのだから恐ろしい。

「だから、初めてだよ」
「ああ、そう……」

 以前と同じ答えに脱力して、使い終えた駒をしまっていく。折りたたみ式の盤面に全ての駒を入れて閉じ、それを鞄に突っ込んだ。

「それじゃ、俺は行く所があるからこれで」
「行くところ?」

 軽く言って立ち去ろうと席を立つと、カズキが顔を上げた。

「うん、少しね。ヴェルの森に教会があるんだよ。多分カズキとか、この島の人は大体知らないと思うんだけど」

 自分が今から向かおうとする場所の事を話して、ロウはちらりとカズキを見る。
 教会という場所がどういう場所なのか、やはりいまいちピンとこないらしい。訝しむような表情のカズキに、ロウは笑う。

「何ならカズキも来る? 多分、相手も嫌がらないだろうし」

 大方、あの司祭のことだ。カズキを連れて行っても嫌がるどころか寧ろ喜ぶだろう。その様が簡単に想像できる。
 カズキは少し悩んだようだったが、すぐに首肯して自らの鞄を手に取った。


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