ノット・レストインピース

□1,謎の邂逅
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「――それで、結局三人かー」

 森――ヴェルの森と呼ばれている場所に続く道を歩きながら、ロウは欠伸をしてから独り言のように呟いた。
 今森に向かって歩いているのは自分を入れて三人だけだ。自分と、この話を持ち出した張本人であるマキと、自分で良ければと声を上げてくれたメグミ。
 軽く頭上を仰げば、雲が幾つか浮かんでいるだけで澄んだ青空が広がっていた。つい最近までは日差しが強くなっているという話があったが、それも心なしか弱まっているように感じる。

「でも、あんまり大人数で行っても……丁度良いくらいじゃない?」
「まあ、メグミの言うとおりかな。本当に不審者だった場合逃げられる可能性もあるだろうし」
「そう、だよね……怪しい人じゃないと思いたいけど……」

 各々、自分の荷物を持ったままでマキの言う“変な人影”についてあれこれと予想を付ける。
 ナノアカデミーを出てから色々と話を聞いた結果、その人影は背が高く見たこともない黒い服を纏っていて、うろうろと森の中を徘徊しているとの事だった。
 しかもそれがここ最近、ほぼ毎日。
 実に怪しい。それがこの三人で一致した意見だ。
 それに現れる頻度も怪しい。ついでに言うと、ほぼ毎日現れているのなら今日も森の中をうろつくかもしれない。
 その意見もまた、三人の中で合致した。
 しかし、本来であれば今は下校中。マキは兎も角、本来であればこのまま帰宅するのが普通だ。
 学校が終わったら寄り道などせずにすぐに帰宅し、荷物を置いてから遊びに出掛ける。そういうルールは外の世界でもナノアイランドでも変わらないらしい。
 ――ということはこれは三人での規則違反になるのだろうか? とロウは思う。

「……まあいいか」

 思いはしたが、その五文字で取り敢えず終わらせておいた。
 マキならば下校途中だったと言い訳できるだろうし――彼女自身がそうするかどうかは置いておいて――自分も校則違反で怒られる事くらいは覚悟している。ここに居るのだからメグミだって同じだろう。
 事実、彼女の表情も足取りも迷いがない。

「マキちゃん。その変な人影を見かけたところって森のどの辺り?」
「えっと、……前に、授業でオニオニスを採取したあたり」

 メグミの問いへの答えに、ロウはすぐに「ああ」と思い当たった。
 自分がこの島へと移り住み、ナノアカデミーに転校してきてさほど日が経たないうちに行われた野外授業だ。玉葱のような形をしたキンであるオニオニスを採取し、提出すること。
 しかしあの場所はそこまで奥まった場所ではない。道に迷っていても、余程のことがない限りは森から出られるだろうといったところだ。
 そんな場所でうろうろしているのはやはり怪しい。
 一体どういうことだか、と内心でぼやきながらもロウの足は止まらない。

(…………何事もなきゃいいけど)

 ぼんやりと考えたことがどういう意味だったのかは、ロウ自身にもよく解らない。
 時折他愛もない会話を交わしながらも歩き続けて、三人は森の中へと繋がる入口でようやく足を止めた。

「……よし」

 誰に言うでもない、自分自身に確かめるようにロウは呟く。
 マキ曰くバクテリアンXではないらしいし、怪しげな研究ばかりを行っていたバクテリアンラボも“あの事件”が終わってからは以前のように人の為になる研究を行うラボに戻っている。
 だからもし、もしもあのとんでもなくダサい全身タイツでマスクマンなキンバトラーに出会ったとしても、キンバトルをする羽目にはならないだろうが――用心するに越したことはない。
 備えあれば憂い無し。
 ちら、とメグミとマキの様子を窺えば、二人とも緊張した面持ちで今は誰もいない森の中へと視線を向けている。

「行くよ」

 短くそれだけを告げて、ロウは森の中へと足を踏み入れた。
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