ノット・レストインピース
□4,包み込む教会
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「トバルさん! 何でアカデミーにいるんですか?」
メグミが自分よりもかなり背が高いトバルカインを見上げて言う。
それは単純に“何故ここにいるのか”という問いなのだろうが、メグミの疑問は彼の中でねじ曲がってしまったらしい。
「大丈夫ですよ、今日はちゃんと地図も持ってきましたから」
そっと差し出した手には四つ折りにされた紙。何度も使用したのだろう、所々が破けたり折り目が付いていたりと結構ぼろぼろになっていた。
少々ずれた答えを返したトバルカインに曖昧に頷いたメグミは、不意に手を引かれた事に気付く。
メグミの手を怖ず怖ずと掴み、くいくいと引っ張っていたのは他の誰でもないマキだった。
「……この人、昨日森の中であった人……だよね?」
「うん。トバルカインさんっていうの」
小声で言葉を交わし合うメグミとマキを見て、トバルカインがぱっと表情を明るくさせた。
マキへと身体ごと向き直り、目線を合わせようとするように軽く屈む。
「初めまして、マキさん。あなたの事はお二人から聞いています。昨日はすみませんでした、何せ道に迷ってしまったもので……」
はは、と恥ずかしげに苦笑するトバルカインに、マキは曖昧に頷いた。
こうして見てみれば、人畜無害に人の形を与えたような人物だ。確かに服装から始まる彼の出で立ちは今までに見たことのないものだったがそれだけだ。寧ろ、きっちりとした正装にさえ見える。
この人のどこが不審人物なのだろう、とマキはぼんやりと考えて、ふと気付く。
「……け、結構よく、トバルカインさんを森の中で見ていたんですけど……」
「いやあ、結構頻繁に地図を忘れてしまうのですよ……私、方向音痴なもので。あ、あとトバルで結構ですよ」
照れくさそうに頭を掻いて、トバルカインは屈んでいた腰を上げた。
ずれてしまった肩にかけている白い布――ストラを手で直し、今この場にいる三人を見る。
「ところで、皆さんこれからどこかにお出かけですか?」
「はい。丁度トバルさんの教会に」
小首を傾げたトバルカインの問いに首肯してロウが答える。
昨日会ったばかりの彼等が、もう自分の元に行こうとしてくれていた。その事実に、普段から優しげな微笑を湛えているトバルカインの口許が更に緩んだ。
それを隠そうともせず、彼は眼鏡のレンズの向こうで幸せそうに目を閉じた。
「嬉しいですね、そう言っていただけるとは思っていませんでしたから……ああ、ここまで来た甲斐がありました」
うんうん、と何度も首肯するトバルカインにつられて笑い、ロウは高い位置にある彼の顔を見上げた。
「それじゃあ、案内。お願いできますか?」
「ええ勿論。むしろ私の方が案内させて貰いたいくらいです」
今にも自分達に背を向けて走り出しそうなくらいの喜びように、ロウだけではなくメグミやマキも思わず笑いを零す。
くすくす、という堪えきれなかった笑い声。それにトバルカインは照れくさそうに、少しばかり視線を逸らした。
「よろしくお願いします、トバルさん」
「よ、よろしくお願いします」
笑顔で軽く頭を下げたメグミと、弾かれたように深々と頭を垂れたマキ。両者の違う反応にトバルカインは声を出して笑った。
「では、御案内致します。ついてきてください」
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