ノット・レストインピース
□5,司祭との攻防
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ロウとトバルカインの二人は、礼拝堂の祭壇を挟んで向かい合うようにして立っていた。
メグミとマキは、お互い祭壇の両脇に。つまり、四人で祭壇を囲むようにしている。
祭壇の中央には、何の飾りも仕掛けも施されていない長方形のシャーレが一つ。ナノアカデミーでもよく使用される、pHも温度も関係ないごく普通のノーマルシャーレだ。
お互い、自らのナノ・データ・サンプラー――通称NDSを片手に、もう片方の手にキン達に指示を出す為のバトルタクトを構える。
「――ルールは、制限時間が三分。技玉はなし。シャーレはノーマルシャーレ。そして通常バトル。で、いいですね?」
「ええ、分かりました」
首肯して、トバルカインとロウがほぼ同時にNDSに視線を落とす。
そこに並んでいるのは今まで自分達が採取、或いは生み出してきたキンの羅列。そこから二匹、自分が好きなキンを選んでシャーレへと呼び出す。そしてそのまま、お互いにキン達に指示を出して行うのがキンバトルだ。
表示されているキンのリストを高速で動かし、結構上位に表示されている二匹のキンを見付ける。
ロウは悩むこともなくその二匹を選択し、トバルカインもさほど時間をかけずに選び終える。
「準備、できましたか?」
「ええ。トバルさんは?」
「私も準備は完了です」
お互いにお互いの顔を見て、それからシャーレへと視線を落とす。
そこに現れた四種類のキン。ロウが選んだのは自らのコユウキンであるドラゴファージに、未だ研究が進められているメタルドットといううLサイズのキンだった。
メグミやマキからすれば最初は驚いたものの、今では見慣れてしまった二種類のキン。
「おや、見慣れないキンですね。あなたのコユウキンですか」
「はい。トバルさんは?」
彼も外から来た人間なのだ。恐らく自分と同じく、珍しいコユウキンを所有している。どうせ戦うのならそれを一目見てみたい。
そう思って尋ねてみたのだが、トバルカインは曖昧な笑みを浮かべて首を振るだけだった。
「今回はまだ秘密ですよ」
バトルタクトを持った手の人差し指を立てて唇に当てる。静かにしろという意思表示のようなジェスチャーに、ロウは残念に思いながらも深追いはしなかった。
結局、トバルカインが選んだキンを見てみるとどちらも普通に見慣れた新種キンだった。
バトルトーナメントへの出場資格を得る為の課題として提出を求められたソードスター、開かれた本のような形をしたブックマキン。前者は勿論だが、ロウはブックマキンも所有している。
自分もトバルカインも、選んだ武器はエッジとソリッド。確かに相性としては悪いが、キンをぶつける相手を間違わなければさほど問題はないだろう。
口を閉ざしたロウが考えていると、トバルカインが小首を傾げた。
大丈夫か、と言外に問われ、小さく頷いて肯定を示す。
「それでは」
始めましょうか、と続けた彼の声と同時に、向かい合う二人のバトルタクトが動いた。
各々のキンに指示を出し、どう動かせばもっと戦局が有利になるかを考えて動かしていく。
アカデミーの中でもトップに近い成績を誇ると言われるロウの戦いに、トバルカインも微笑んだままで応戦していた。