ノット・レストインピース

□5,司祭との攻防
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 彼は、トバルカインは自分のキンバトルについてきている。それもただついてきているだけではない。
 正に互角。或いは、彼の方が一枚上手かも知れない。そう思える程巧みな戦い方に、ロウは無意識の内に頬を緩ませていた。
 しかし、何だろうか。どことなく妙だ。
 確かに彼のキンバトルの戦法は巧みだが、それだけだ。言ってしまえば“上手いだけ”のトバルカインに、ロウの脳裏に違和感の影がちらつく。

「――ロウくん?」
「何でもないよ」

 隣からメグミの声が聞こえてきたが、ちらりとそちらを見るだけに済ませておく。短く返事をしてからすぐにシャーレへと向き直った。
 今のところ、シャーレを埋めているキンは自分もトバルカインもほぼ同程度。このままなら引き分けになるだろうな、といった風だ。
 Mサイズであるブックマキンは兎も角として、ソードスターは既にシャーレ中に散らばっている。一部で固まっている部分を攻撃しに行けば他の所では増殖を続け、一定まで増えたキンでこちらを囲みにくるつもりなのだろう。
 シャーレの様子を見ればそれくらいの事は分かる。それに、この戦い方は自分がMサイズとSサイズのキンを使用して戦うときの方法と全く同じだ。
 最早両者の間には会話すらなく、ただ無言で自分の手に持ったバトルタクトを振るう。
 残り時間が一分を切った辺りで、シャーレの片隅に数匹だけ残しておいたメタルドットが微かに振動した。
 ただでさえ増殖の遅いLサイズのキン。それが増殖するが早いか、ロウは全滅を避ける為に残していたキンをまとめて大きく囲む。
 そしてそのまま一気に移動させる、大胆とも取れる行動にトバルカインが軽く目を瞠った。
 シャーレの中を動き回るキン達を小さく分割し、散らばったソードスターの殲滅にかかる。

「あ、っと……」

 思わず、といった様子で声を上げたトバルカインに構わず、ロウはキン達に指示を出していく。
 数匹のドラゴファージでSサイズのキンを倒し、最初こそ囲まれたり増殖が追いつかなかったりと危うかったものの今は持ち直したメタルドットで大きく固まっている所を狙い撃つ。
 殆どのLサイズのキンは移動速度も遅いから、相手に自ら向かっていく戦法は基本的に不得意な筈なのだが――トバルカインが考えている内、機械的な音が耳に飛び込んできた。
 ピッ、ピッ、と時間を刻む音。それは時間切れがすぐそこまで迫っている事を知らせる音で、二人の戦い方がいよいよ切羽詰まってくる。
 お互いにバトルタクトで最後の指示を伝えるのと時を同じくして、タイムアップを告げる機械音が鳴り響いた。

「…………本当、ぎりぎりで俺の勝ちですね」

 自分のNDSに踊る勝利の文字に、安堵したように息を漏らしてロウが呟いた。

「おめでとう、ロウくん!」
「すごいバトル見せて貰っちゃった……!」

 自分達のバトルを見物していたメグミとマキの二人に言われながら、ロウはNDSを閉じる。

「いやあ、ロウさんはやはりお強いですね」
「それは俺の台詞ですよ。……失礼ですけど、まさかここまで強いなんて思いませんでした」

 額に浮いた汗を拭ってトバルカインが笑う。
 苦笑しながら言うと彼は一瞬虚を突かれたような表情を見せて、それから嬉しそうに表情を綻ばせた。

「有り難う御座いました、ロウさん。久しぶりだったのですが非常に楽しめましたよ」
「……あれで久しぶりとか、本調子だったらどうなるのか考えたくないですね」

 軽口を叩いて肩を竦める。
 自分は一度、負けるかも知れないと思うくらいにはトバルカインの戦い方に気圧されていた。彼が言うにはこれで久々なのだから、もしも本調子で自らが使い慣れたコユウキンを使ってのバトルだったらと思うと怖くなる。
 そんなロウの心境など知ってか知らずか、笑顔のトバルカインは使用していたNDSを閉じ、神父服の懐にしまい込む。
 手に嵌めている白手袋の縁を引き、嵌め直してから彼はロウへと手を差し出した。

「勝負、有り難う御座いました」

 トバルカインからの感謝を示す握手に、ロウも口許を緩めて応じた。


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