×グレイ
□さよならの歌
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コミック第74話「星霊王」で、もしロキがルーシィに救われずに消えてしまったら。という話。
夕暮れ時の川辺。美しい橙色の空の下で、心地よい歌声が響く。
フィオーレにはない異国の歌は、聴く人の心に溶け込んでいくようだった。
「綺麗だね。」
歌を歌っていた青年――――グレイは、声のするほうへ顔を向ける。
そこには、優しい微笑を浮かべたロキがいた。
「…俺の、故郷の歌なんだ。よく、母さんが歌ってくれた。」
そう言ったグレイの顔が少し曇る。
彼の故郷は、遥か遠くに位置する寒村だ。
平凡ながらも幸せな日々は、デリオラにより一瞬にして崩された。村も家も友達も、家族さえも失った。
先日悪魔の島にて一悶着あり、グレイは兄弟子と和解できたらしいが、幼い頃に刻まれた傷は未だ癒える事はない。
「すごく、綺麗な歌だ。
グレイがこんなに上手なんだから、グレイのお母さんはきっと、もっと上手なんだろうね。」
悲しみに耐えているグレイの手をそっと握り締め、微笑みかけるロキ。
グレイはロキの言ったことに目を瞬かせてから、小さく笑った。…遠い昔を思い浮かべながら。
「ああ、すげえ綺麗で…俺は、母さんの歌が大好きだった。」
珍しく感傷的なグレイが、ぽてっと自身の頭をロキの肩にのせた。
そんなグレイの頭をロキが子どもをあやすときのように撫でる。
いつもは「子ども扱いすんな!」と喚く彼も、今日ばかりはおとなしかった。
「僕も好きだよ。グレイの故郷の歌。」
「…あんがと。きっと、村の奴らも喜んでる。」
穏やかな静寂が二人を包む。グレイとロキはお互いの手を握りながら、地に沈む夕日を見ていた。