×グレイ

□ならばいっそ、逃避行
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太陽の光が辺り一面を橙色に染める。

いつもは青い海の色も今だけは橙色に染まっていた。

周りには人もいなくて、海の波打つ音だけが聞こえる。


「グレイ。」


後ろから声をかけられた。

が、その声にあえて応えることはせず、俺はぼんやりと海を眺めていた。

無言を肯定と受け取ったらしいそいつは何も言わず俺の隣に座った。


「何見てたの?」

「別に、なにも。」


隣に座った青年ーーーロキはふーんと興味なさげに返事をすると、同じように海の方を見た。

特に話すこともなかったので自然と会話も途切れる。

ただ無言の中に波の音だけが響いた。


もうどれくらいの時間が過ぎただろうか。

だいぶ経ったような気がする。

あれから俺たちの間で会話が起きることはなかった。

ひたすらの無言。
無言が気まずいというわけではないけど。


それにしてもこいつ、いつまでここにいんのかな。

頭の隅でぼんやりと隣にいるロキのことを考える。

正直ここにいても楽しくはないだろう。
ここにいるくらいなら、ギルドにいた方が何倍も楽しい。
なんだかんだいって、こいつも賑やかなのは嫌いじゃないと知ってるから。
それとも、

こいつもなにか悩んでんのかな。


普段あまり本音を見せないロキだが、時折翳った顔を見せることがある。

フェアリーテイルのみんなは、みなそれぞれ何かを抱えてる。

やはりロキも、何かを抱えているのだろうか。

「ギルドに戻らねぇのか。」

「グレイこそ戻らないの?」

「俺はまだ帰らねぇ。」

「なら僕も。」

そう言ってロキが笑うから、俺もなんだか笑えてきて2人で笑いあった。

2人の間に流れる空気が穏やかになる。

「ねぇグレイ。」

「ん?」

「何見てたの。」

「.........海、見てた。」


海になった師を見ていた。

今日はウルの命日。

俺の師は氷になった後、月の力によって水となり海へ流れた。

海を見ていたら、もしかしたらウルに会えるかもしれないからだなんて。

我ながら夢見すぎだよな。

そう呟いたらロキはそんなことないよ、と言ってくれた。

ロキは優しい。


「僕だって同じだから。」

そう言ったロキの顔は、なんだか悲しそうだった。
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