狐の嫁入りが終わる頃

□第1話【雨の夜は】
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《本日は満月が綺麗に見られるでしょう。
続いては》

テレビからの音声をBGMにしながら読書をする。
それが私の日課。

「失礼ながら雨天様、
そのような体勢は控えるべきかと」

「うるさい」

ベッドから頭を下ろして本を読み続ける。
私の好きな体勢は少々頭に血が上る。

「顔が赤くなっております。
病院送りになりたいのでございますか?」

執事である稲荷は私から少し離れたとこらに立っている。

「う、うるさい…」

だいぶ視界が怪しくなってきたので仕方なく頭を上げた。

「はぁー…ねぇ、稲荷」

「なんでしょう?雨天様」

「今日って小春お姉さまが帰って来る日よね?」

「はい。小春様は18時頃ご到着予定ですが、
どうかなさいましたか?」

久々に帰ってくる姉。
きっとまた"夜の散歩"に誘われる。

「別になんでもないわ」

「心配ございません。
今宵は晴れでございます」

稲荷の言葉に苦笑する。

「そうね。それにさすがの小春お姉さまも
もう、あんな思いはしたくないでしょうし…」



あんな思い…
私のせいで傷付けるようなことはもうしたくない。


「雨天様、10時になります。
そろそろご準備を」

「えぇ、分かってる」


ベッドから降りて身嗜みを整えてから部屋を出る。
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