狐の嫁入りが終わる頃

□第2話【雨の再会】
1ページ/2ページ

目が覚めると見慣れた天井が視界に入った。
起きて辺りを確認しようとしたが、力が入らず少しだけ頭を持ち上げる程度だった。
しかも、無駄に身体が重たい。

「あ、まだ起きない方がいいと思うけど?」

稲荷ではない男性の声が聞こえ、慌てて声の主を見ようとしたが…

「だから、起きない方がいいって。
その様子だと、起き上がれないみたいだけど」

言い回しは稲荷に似ていたが、稲荷よりも声が高い。
そして、敬語じゃない。

「あなた、誰なの?
私の部屋から出て行ってくれるかしら?」

「俺だって出て行きたいさ。
年頃の男子が見知らぬ女の子の寝室に放置されて、
しかも、部屋の主は寝ていた訳だし…」

何を言ってるんだろ。
てか、誰なんだよ。

「答えになってない」

起き上がれないのが悔しい。
起き上がれたらすぐにでも、追い出してやるのに。

「いや、俺今手錠されてるからさ」

ん?
今、こいつなんていった?
手錠されてる?
いやいやいや、いくら天下の狐ヶ崎家でも、犯罪紛いのことまではしていないはず…たぶん。

「冗談はやめてよ」

「いや冗談じゃないんだけど…」

「じゃあ、説明してよ!!
私が眠ってる間に何があったのよ!!
そして、あなた何者なの?」

「俺も良く分からないんだけど」

八つ当たり半分で問い詰めたが、男は答えてくれなかった。

「はぁー。もう、なんなのよ…」

ため息交じりに本音を漏らすと、男がポツリと呟いた。

「なんか、その…ごめん」

男が本当に申し訳なさそうに言うものだから、何だか良心が痛んだ。
私は悪いことしてないはずのに…
いや、八つ当たりはしたけど。

「あ、いや、その…私の方こそごめんなさい」

なんで、謝ってるんだろ…私。
そんなことを考えているとそこに、この空間に不釣合いな足音が聞こえてきた。
足音は徐々に大きくなりそして、ベッドの側で止まった。

「お嬢様、気分はいかがですか?」

「最悪!!!」

「左様でございますか」

この状況でも稲荷は相変わらずだった。

「稲荷さん、やっときた。
これ、外してもらえますよね?」

男は、稲荷の知り合いのようだ。そして、

「畏まりました。」

稲荷の声が聞こえ、聞き慣れない金属音がカチャカチャと聞こえた。
どうやら本当に手錠をされていたようだ。

「稲荷」

「はい。何でしょう、雨天お嬢様」

「この状況説明してくれるかしら?
いや、説明しなさい」

「畏まりました。お嬢様」

自信たっぷりの言い方をする稲荷はきっと、余裕な笑みで深々と頭を下げているに違いない。
私はそう、確信した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ