小説
□『鉛』
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あまりに無機質な音だったので、危うく鳴海は無視するところだった。
無視というよりは、彼の聴覚を刺激しない。
そういった表現の方が、的確かもしれない。
どのような理屈を並べても、つまるところ、鳴海の反応は遅れたのだ。
「……どうぞ」
気まずさすらも隠しきれず、鳴海が入室を許した先には、黒い外套に身を包んだ少年−−もしくは、青年への過渡期にある−−がいた。
その人物は、入口付近に立ち尽くしたまま、暫し無言で鳴海を見据えた後、深くお辞儀をした。
「本日から、こちらでお世話になります。葛葉ライドウです」
その名を聞いて、鳴海にも漸く合点がいった。
ヤタガラスから、一人側に置いてほしい、と懇願のような命令を言い渡されていたのだ。
見たところ、葛葉ライドウという人物は、まだ学生らしかった。
多少の事情はあらかじめ聞いていたのだが、こと年齢に関しては、見事にすり抜けていた。
些か不安を抱えながらも、若輩相手であるから、という理由で、鳴海はライドウを受け入れる体制を整えたのだ。