小説
□『小遣い』
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「お小遣いをあげよう」
そう言って事務所から半ば追い出されたのは、つい先程のことだった。
ライドウの手中では、鳴海に握らされた紙幣がもみくちゃになっている。
「困った、どうしよう」
足元のゴウトに相談すると、好きにすればいい、というなんとも素っ気ない回答を得た。
好きにしろ、と言われるのが、ライドウは一番辛かった。
金は使うか、貯めるものだというくらい、ライドウとて知っている。たまに、人に恵むものだということも、彼は知っていた。
「ゴウト、僕は鳴海さんに恵んで貰ったのか」
「正しいとも、違うとも言えんが、少なくとも、お前の考えるような類の行為じゃあないから、安心しておけ」
ゴウトはそう言ったっきり、その長い尾で地面を叩いている。
定期的に緩やかに揺れる尾は、振り時計を彷彿させた。
「好きなことかあ」
なにがあるだろうか。
その呟きを合図には、ライドウは歩を進める。
ぶらつく覚悟は出来たようだった。