小説

□『小さい秋』
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こんなことって、初めてだ。
まるで、自分が自分じゃないようで、とても不可解。
帝都に来てから、以来ずっと変ではあった。
それでも、今朝に比べれば、幾分ましであったのだ。


−−−ライドウは考えた


「ねえ、通してくれない、ライドウ君」
「は、今なんと」

ちょうど探偵社の出入口、関のようにライドウは立ち塞がった。
自然、これから出かけようとする鳴海は、行く手を阻まれた状態となる。
糊の効いた新しいシャツ、磨きあげられた靴に、洒落たダブルのスーツ。
厭味なほどにめかし込んだ鳴海は、銀座でタエと会う約束をしている。


おもしろくない


「2時までに、銀座へ行かなくちゃならないんだよ」
「知ってますよ」
「だったら尚のこと、そこを通してよ」

焦りを帯びた鳴海の様子が、ライドウをさらに追い込んでいく。
タエと会うのに、これ程めかし込まなければならないのか。
普段の鳴海はどうだ。
思い返せば返すほど、ライドウは情けなく、惨めな気持ちになっていく。
そしてその裏で、嫉妬の燠火は燻り続けるのだ。
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