おお振り

□Bitter×Sweet
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2月14日―

それはこの国のチョコレート会社が作り出したもはやチョコの日と言ってもいい程、世間はチョコレートの匂いに包まれる。

そんな中、実は私も好きな人へのそれをちゃっかり用意していた。

それも頑張って渡すつもりでいた……今の今までは。



朝、下駄箱から上履きを出して履き替えて居たら、横からドサドサと何かが落ちる音がしたのでそちらを向けば、自分の下駄箱から溢れ出した女の子たちの“下心”を唖然と見つめる高瀬の姿があった。



『へぇ、こういうのってガチであるんだ…去年より増えてない?』


「うわっ!名前か…」



わざと背後から話し掛ければ案の定びくりと肩を跳ねさせた高瀬。

流石桐青野球部エース様だ、おモテになる。

感心と同時にやるせなさが心を渦巻く。


その日は朝から高瀬の机やロッカーもチョコレートで溢れ返っていて、私の鞄の中の箱がこれらの中に小さく紛れるのだろうかと思うと、余計渡せなくなってしまった。

結局高瀬にチョコレートを渡すことも出来ずにただ時間が過ぎていった。


放課後部室へ行くと、まだ誰も来ていなかったので、一人で部誌を書き始める。

するとすぐに部室に利央が飛び込んでくると同時に、期待の眼差しで微笑まれた。



『…どうせ利央も沢山貰ったでしょ』


「えぇー?俺は名前サンのチョコが欲しいのにぃー」



抱き着いて甘えてくる利央。



『ないよ』


「嘘だ。名前サン、甘い匂いする」


『ばっ、嗅ぐな!』



犬か!とツッコミを入れたけれど、利央はあっさりスルー。早くチョコをくれと言わんばかりに私を見ている。



『ひとつしかないもん…』


「ひとつ!?誰にあげるんですか!!?」



明かに動揺している利央。

本当は準太に渡したいけど、でもどうせ渡せない…今の私には勇気なんてこれっぽっちもないから。



『でも渡すのやめた』


「えっ、だったら俺にくださいよォ。たとえ義理でも名前サンからのチョコ欲しいです」


『んー…まぁいっか』


「やったー!」



完全に諦めモードの私に抱き着いてくる利央。私は利央から離れると、持っていた紙袋を手渡した瞬間――



「ちーっす…って、え……」


『!』



何で今なのかってツッコミたくなるくらいのタイミングで部室に準太が入ってきた。

利央に渡してる所、ばっちり見られちゃった…ちょっとショックだ。

そんな私の心境を知るはずもない利央は、嬉しそうにロッカーに紙袋を入れてるし、準太は私をガン見している。



『え、えっ、何この雰囲気…準太機嫌悪いよ。何かあった?』



なるべくいつものテンションで話し掛けると、準太は近付いてきて、私の手を掴むと、部室の外へ連れ出す。

部室裏に連れて来られると、準太は私と向き合うようにして立つ。



「お前の本命って利央かよ…」


『へ?』


「お前今年は野球部の分以外は本命しか作らないって言ってたじゃん。さっき利央に渡してた袋、野球部用のじゃないだろ」


『あれは…』



私の言葉を待っているのか、準太は決して私から視線を逸らさない。その時、私の中で何かが吹っ切れた。



『だって…本命に渡したくても渡せなかったんだもん!』


「えっ…」


『だってだって、渡したくても準太は余るほど貰ってるし、その中に私のが紛れるのも嫌だったから…だから、』


「えっ、ちょ…」


『もー!こんなはずじゃなかったのにー!』



こんな告白なんて有り得ない!自分が情けない…堪え切れずにポロポロと涙が落ちる。

準太はオロオロしてたけど、そんなのお構いなしに泣いた。

すると、近くに準太の匂いを感じたと思えば私は準太に抱きしめられていた。



『じゅん、た…』


「あー、もう。俺めっちゃ妬いた」


『……え?』


「俺だって本命からのしか受け取る気なかったのに肝心のお前は利央にチョコ渡してるし」


『嘘……だって、準太…』


「嘘じゃないって。俺が好きなのはお前」



あの笑顔でそんなこと言うもんだから私の涙は余計に溢れてくる。

そんな私に準太は優しくキスをした。

チョコのように甘くない、涙でしょっぱいキスだったけれど、凄く幸せだ。




Bitter×Sweet

ちょっと遠回りのバレンタイン


(利央の奴…名前のチョコ貰ってずりぃ)
(あああ明日!作り直してくる!利央にあげたのよりも美味しいの!)
(まじで!?よっしゃ!)


□ □ □

こういうの憧れます。
そして時期外れのバレンタインネタ失礼しました(笑)

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