シスターと女王と想い人の学園戦争
□2行目 カミングアウトしてしまいました
1ページ/3ページ
夜、5人で談話室でおしゃべりをしていた時。
なぜか話題はクラスの男子の話になっていた。誰がカッコいいとか、誰となら付き合える、とか。
第一小隊のハルキくんは学級委員長だから恋にもマジメそうだけど、マジメすぎて融通がきかなそう。
第二小隊のゲンドウくんは、財閥の御曹司だから、悪い言い方だけど玉の輿が狙える……けど、もしデートするときにもあの執事の綾部さんがついてくるのはイヤ。
第三小隊のリクヤくんは……
「アイツはイヤね」
「そうだ……ね」
「仲間を見殺しにするような人とはね……」
結局、ユノちゃんやキャサリンちゃんの意見に賛成する意味でうなずいてばかりだった。
そもそも、私には好きなタイプ以前に、心に決めた人が……
とは言えず、恋話には賛成するというだけの参加しかできなかった。
「おっ第4小隊!」
階段から、アラタくんが顔をのぞかせた。
な、なんてタイミングで!
ダメよ、キャサリンちゃんたちに知られちゃダメ。落ち着いて、おちついて……顔に出さないように。
「何話してたんだよ?」
「別に、男子には関係ないことよ」
「なんだよそりゃ!
ミサチ、ミサチなら教えてくれるよな?」
『え、えっとそれは』
やっぱり男子禁制なお話だから……!
ああ、アラタくんをごまかすのが心苦しい。
そして彼に見つめられていることにもドキドキする。
けど、それはアラタくんにとってはただの話のきっかけ作りだったのか、すぐに話題を変えて私に話しかけた。
「そういやお前のLBXってすごいよな、何て言ったっけ?」
『えっと、ノートルダム・ショコラって言うの……
シスターになった時、お父さんから貰って』
ちょうど机に置いていたので、アラタくんに向けて見せる。
細い腰まわりと四肢に、左腕に着けられた頑丈な丸い盾。シルエットも丸くできていて、見た目もかわいらしい。
「お前の親父さん生きてたのか!」
『まだ会ってないけど……この子を送ってくれたの。だから、きっとどこかで生きてるって思えるんだ』
「ああ、絶対いるよな!
見つかるといいな、お前の親父さん! いたら紹介してくれよ!」
『うん、もちろん!』
……も、もちろん、友達として、よ。
そもそも私とアラタくんが付き合ってはいけないし……だって、私はシスターだから。
そうよ、アラタくんは『幼なじみ』。
この想いは、なんとしてでも隠さなきゃ……!
続々と第1小隊のメンバーが上がってきた。
お風呂上がりなのか全員肩にタオルを掛けている。
「あっ、第4小隊。そういえばミサチとアラタって前からの知り合いみたいだよね」
「ねぇねぇ、ミサチとアラタってどんな関係なの?」
サクヤくんの言葉をきっかけに、ユノちゃんが私たちに質問を投げかける。
一瞬、キヨカちゃんのあの暗示を思い出してしまい、なんて答えようか言葉が詰まってしまったけど、代わりに答えたのはやはりアラタくんだった。
「俺とミサチか? 5年の付き合いだぜ」
「付き合い!?」
『そ、そういう意味じゃないの!』
ウォータイムじゃないのに、はっきりと大きな声を出してしまった。
いけない、これじゃ墓穴を掘ってしまうわ!
『9歳の時に……一緒にLBXバトルしてから、ずっと遊んでて!』
「へぇ、そんな関係が!」
ユノちゃんはさらに探るように興味津々だ。
「あの『フィアー・ブルーマザー』がこの人と仲がいいなんてね……」
『サクヤくん! その異名はちょっと……』
「ソレってどーいう意味だ?」
「『恐れる聖母』ってことだよ」
「へぇ! カッコイイな!」
キラキラとこちらに目を輝かせるアラタくん。
カッコイイ、かな……
その異名、あまり好きじゃないわ。
変に目立って仕方がないし、とても私のキャラじゃない。
「シスターをしてるからそんな異名なのか?」
「昔はシスターをしてる人たちはみんな「聖母」の異名を持ってたけど、今のシスターはミサチだけだからね……
高い実力を持ち、唯一厳しい規則を守り続けるシスターだから恐れる聖母、『フィアー・ブルーマザー』なんだ」
ぎくっ、と顔が固まる。
厳しい規則……も、もちろん、今の私は、ま、守ってます!
まだ誰にも、恋してるなんて知られてないから!
ああ、心臓がバクバク言い出した。
「ミサチってやっぱ強いんだな!」
「……そういや、星原ヒカルに勝ったことがあるらしいね」
しばらく喋ってなかった我が小隊のメカニック、キヨカさんが口を開く。
『……あっ!
2年前のアキハバラキングダムの決勝で当たった人……!』
「今更気付いたのか……」
「では2人ともは対峙した経験があったのか」
『ごめんなさい、2年前のことだったから……』
「ヒカルにも勝つなんて、やっぱりミサチって最強なんだな!」
『ううん、そんなことは………』
私、アラタくんに何度か負けたことがあるのよ。だから、アラタくんも強い。
何も怖いものがないみたいだし、こうして、もうすでにたくさんの友達がいるんだもの。
それに、何も隠し事がない。私は隠し事を、罪を背負ってしまっている。その罪は、裏返せば弱みとなる。
こんな私に、強いなんて、最強なんて……ウソをついているようで、心苦しい。