シスターと女王と想い人の学園戦争

□3行目 メイさんの正体はロボットでした
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 あああ、突然のピンチ。せっかくアラタくんに再会できたというのに。

 そして、第1小隊と別れてすぐ、第4小隊で固まり……現在に至る。
 ニヤニヤとにやけるキャサリンちゃんとユノちゃん、興味深そうなハナコちゃん、そしてまたCCMでタロットカードを引くキヨカちゃん。
 全員の目線は私に向けられている。
 わーんっ、ルール違反がバレた、なんてことより、恥ずかしさで泣いちゃいそう!!

「ねえねえ、いつからアイツのこと好きになったの?」
「なんでなんで!?」
「も、もしかして昔から?」
 あまりの恥ずかしさに、小さく、コクリとうなずくことしかできなかった。
「もうっ水くさいわね! アンタにも好きな人がいたのね!」
『で、でも、私シスターだから……

 人に恋をするのは、禁止だって……』


 だから、隠そうと決めてたのに。
 人にバレてしまった……
 恋をすることは、いけないと分かっていたのに。
 もう私は学園にいられなくなるかも……みんなを、がっかりさせてしまうかも……

 それが怖くて、うつむいてしまった。

「誰がそんなこと言ったの!?」

 キャサリンちゃんが、驚いたように声を上げた。
 ……え?


「そんなの関係ないでしょ!? 女の子なんだから好きな子くらいできるわよ」
「確かに、シスターは恋愛禁止なんだろうけど……
 だからってミサチが苦しむことないよ」
「わ、わたし、応援するよ!」
「……『恋人』の正位置。上手くいく可能性は、なくはない」

 みんな……

『私……好きでいて、いいの?』


 もちろん!

 4人全員の揃った声が、胸に、じんと響いた。
 私……悩まなくていいんだ。
 なんて、みんなは優しいの……


 ほろりと、一粒の涙が、こぼれそう……になった、その瞬間。


 カラスの群れが、近くを、鳴きながら羽ばたいた。


「水無月ミサチ」

 カラスに驚いたのではない。


 私たちの目の前に立つ……黒い人物に、心が、再び固まった。




 ジェノックカラーとは違う、中立性を意味する黒のシスター服を身に纏った、聖母。

 この人こそ、神威大門統合学園非常勤講師……シスターメイ。

 カラスの起こした風と、落ちていく黒い羽が、彼女の服をはためかせる。
 彼女の表情は、氷のように冷たく、また、怒っているのか、少しだけ、唇を固く閉じていた。


 私の名前だけを呼んだ。それはつまり、私にだけ用がある。
 普段はお優しい先生なのに、厳しい顔をされている。
 ま、まさか……あの通信を聴いて、この4人のようにお察しした?
 一番バレてはいけない人にバレてしまった恐怖で……自身の体が震えだす。


「あっ、メイ先生! ……怒ってます?」

「やあ、ジェノック第4小隊。
 今日は大活躍だったな」


 ……さようなら、みんな。

 心の中で、早まるように別れの挨拶を告げた。

 シスターがゆっくりとこちらに近付く。歩幅が大きい。両手には拳が握られている。
 ああ……終わった。
 やはり、私に恋は、タブーだったのよ……

 ガシリと、先生が私の肩を掴む。ちょっと力が入っている。
 怒られることを覚悟して、しっかりと目を閉じた。歯も食いしばった。
 先生、許されないこととは、分かっていまし───



「なーんだお前にも意中の相手ってヤツがいたんだな!!」

 あはははっ、と肩を揺らされる。そうかそうか、と、満面の笑みを浮かべて。

 ……え? あれ? 私の予想とは違う……

「シスター、許してくださ……え?」
「メイ先生……怒らないんですか?」

 私の疑問を代わりに聞いたのはユノちゃんとキャサリンちゃん。
 先生の雰囲気が一転したものだから唖然としている。
 いつもは気さくで優しいけど、ちゃんと叱る時は叱る。それが今は、なぜか私の恋のことで喜んでいる。
 シスター禁則事項のうちの一つなのに……!?

「怒る? おいおい、なぜだなぜだ……

 恋だぞ? 女の子なんだから気になって当然じゃないか! ……じゃないな、教師の立場からすれば微笑ましいものだ!」

 それでもビックリで、私たち5人は戸惑いを隠せない。

 そ、そんな理由でOKしていいんですか!?
 先生は教会から派遣されたシスターの先生なのに!
 一番私を叱らなきゃいけない立場なのに!

 先生は相変わらず飄々とした顔つきで、私たちに微笑む。
 誰も先生の本心を読むことはできない。

「まあ、そーゆうルールは創ったっちゃ創ったな?
 だがな、せっかく内気なお前がこのように小さく淡い想いを胸に秘めているのだ、このままナシにするのはいささかもったいない、そうだろう!?」
「え、ええ……?」
 あまりにも早口で、熱心に語るものだかたもう置いてけぼり。

 れ、恋愛OKなシスターなんて聞いたことないです!

「しかしそんな二人に訪れる試練……! それは、他の先生方にバレてしまうこと! 中には石頭のヤツがいて、本物のシスターのように振る舞え〜なんて騒ぐんだ! さらにさらに! お前らの関係を利用した脅しだってありえなくない話だ!! 二人の運命を引き裂く危機! 目が離せないな!!」
「先生もしかして面白がってます!?」
「なにを言う、生徒の恋愛を面白がるなど!」
 それにしてはとてもワクワクしてますよ!?
『あ、あの、でしたらどうすれば……』
「なあに、安心しろ! このすべての生徒の見方、シスター・メイがちょちょいのちょいでなんとかしてやる! あの通信だってもみ消して無かったこともできるからな!」
 先生、本当に何者ですか!?
 一介の教師が、全て記録されてある通信データをもみ消す権限なんて持ってるなんてありえるの……!?
「が、くれぐれも他のヤツにはバレるなよ? 私はおも……応援したいから他言は一切しない。それは、人間の脳とはコンピュータのメモリと違って記憶をもみ消すことはなかなか難しいからな。

 お前の恋心が強みになるのか弱点になるのか……それはこれからのお前次第だ」


 夕暮れをバックにしたハトが近くの木に留まる。
 先生はその子に向かって人差し指を差し出すと、ハトはそちらに移動して留まった。先ほどのカラスは、偶然羽ばたいただけで、ただ私の緊張がはたらいて見えただけだったのかもしれない。
 先生はいつものように、いたずらに微笑んだ。

 先生は、私たちシスターの味方。たとえ禁忌に触れようとしても。
 シスターとしての生き方より、女の子としての生き方を優先してくださる、変わったシスターの先生。
 島のシスターの割には、非常勤講師としてあまり学校に顔を出さないので、さらにミステリアスに思われている。

 ……先生も、応援してくださる。
 私は……一人じゃ、ないんだ。

 支えてくれる、人がいるんだ!!

「じゃあ、これからも学園生活楽しめよ、ミサチ。お前なら隠し通すと思うが、まあ気を付けろ」


 ハトを飛ばしてから去りゆく先生の後ろ姿は、私と変わらないくらいの大きさなのに、大きく見える。
 ああ、なんて素晴らしい先生なんだろう。
 先生に感謝しながら、また4人で恋話をして帰った。もちろん、みんなも本人にも周りにも話さないことを約束してくれた。

 上手くいかなくはない恋、なのかな。
 ……いつか、告白できるチャンスが、来るのかな。


「あああああ!! メイ先生!! 待って!!」

 突然キャサリンちゃんが大きく声を上げた。
 一番近くで聞いたので耳がキーン、と響く。いたた……い、一体どうしたの!?
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