シスターと女王と想い人の学園戦争

□4行目 ブラックローズクイーンが通ります
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 ワタシの朝は早い。
 けれどこれが、ワタシの生き様だとするのなら、やめるわけにはいかない。
 真っ白な薄い半紙に、真っ黒な墨汁を含ませた筆を乗せる。
 一文字、一画ごとに魂を込めて書く。
 こうして、芸術とも言える美しい文字が書き上がる。

 磨穿鉄硯(ませんてっけん)。
 物事を達成するまで、たゆまず努力することを指します。
 日本語は美しいです。たった4つの漢字だけで、このような立派な意味を持つのですから。


 用事を一通り終えた後のワタシは、誰と共にということもなく、学園へ登校をする。
 廊下を渡り歩いた先、人々はワタシを見つめて、何かしらアクションを起こす。
 睨むように見つめる者、恐れるように目を背く者。
 恐れたいのなら勝手に恐れればいいのです。
 ワタシは『ブラックローズクイーン』と呼ばれているそうです。孤高で、美しいがトゲを持って咲く高貴な花。
 美しいかはともかく、もしその称号を求める輩がいれば圧し潰すまでです。
 ワタシはこの学園で、トップに立ってみせます。

 ……反対側から向かうとある人物は、他の人物とは違うように見つめてくる。
 長い黒髪、紫色の手袋……ワタシの臙脂色とは違う、白の制服。

『…………………………』
「…………………………」

「あの2人が向き合うなんてな……」
「バイオレットデビルとブラックローズクイーンが……」



 この人物とは、いつか決着をつけなくてはいけません。
 法条ムラク。


 トップに立つのに、目の上のタンコブの存在です。
 ワタシ達の所属する仮想国・フジリッツァと、彼がトップに立つ仮想国・ロシウスが対峙する時が来たら、必ずワタシと彼がぶつかり合う。どちらから勝負を仕掛けるのかは、その日による。
 しかし勝負は今日までついた試しがない。それほど、彼には実力があります。
 ああ、勝てたことがないと思うと、頭にきます。
 苛立つとつい髪をいじってしまいます。

 しかし、なぜこうして立ち止まっただけで、こうも騒ぐのでしょう。


『法条ムラク』

 ざわ、とまた声のボリュームが上がった。

 こうして目が合ったのだから、挨拶くらいせねばならないでしょう。

「…………………………」

 だが法条ムラクは真顔で黙ったまま。そのまま、横切って去ろうとした。
 なっ、こ、これから挨拶をするのですよ。無視をしようなど無礼です!
 個人的な宣戦布告はご法度ですが、アナタは聞き入れないわけがないということを、ワタシは知っています!!

『次こそアナタの首をとってみせます』

 ワタシを一瞥する彼は、また正面を向き、そのまま過ぎ去る。


「これは……アーリーンさんの挑戦を受け取ったことになるのか!?」
「いやもしかしたら逃げるのかも……」

『アナタは決して逃げない。
 いえ、逃がしはしません。必ずワタシの手で倒してみせます』


 アナタさえ倒せば、ワタシは学園のトップなのです。
 トップに立つのは、このアーリーン・ウォーゼンなのです!!





 ワタシの父親は、かつてLBX管理機構・オメガダイン社で総帥を勤めていました。
 しかし実態はA国副大統領を手を引き、LBXを兵器利用しようと目論んでおりました。
 表向きはLBX公式大会のルールの規定や、悪用防止の監視などを行うとおっしゃっていたから、ワタシもLBXを娯楽として楽しんでいたのに───

 そして……父は謎の急死を遂げました。
 その後に起きた、ウォーゼン一家への地獄・悪夢は、他人に理解されないほどに計り知れません。
 どれほど後ろ指をさされたでしょう、どれほど悪人の娘と蔑まされたでしょう。
 だからワタシは決心したのです。

 父親のせいで自分が自分でなくなってしまうのなら、自分自身の努力で求める自分を創ってみせる、と。
 単身で神威大門統合学園に留学しましたが、やはり当初は父親のことで蔑まれた。……覚悟したまでのことです。
 ワタシはそんな輩をウォータイムで蹴散らしました。
 だからでしょうか、触れただけで毒を受けそうな「ブラックローズクイーン」の異名をいただき、そして、巨大仮想国・フジリッツァの学級委員長兼第1小隊隊長になりました。
 やがて蔑まれることもなくなり、最強の実力を手に入れましたが……まだ、上には上がいます。
 そう思ったある日、彼に出会いました。




 ワタシと互角の実力を持つ生徒。
 戦い甲斐がある。もっと本気を出さねば勝てない。
 彼より、強くならなければならない!

 これが野生の本能というのなら、その本能に従いましょう。気の済むまで武器を振る……それが、ワタシです。
 ワタシはとどまることなど知りません。
 常に上に立ちながら、上を見続ける。
 女王の矜恃こそ、そういうものです。
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