感謝感激!

□テレビ越しではなく目の前で
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(名前固定です!)


本当ならば、この2人の少女が出会うはずはなかった―――







『うわああああああ遅刻遅刻!』


パンをくわえて全力疾走するのは、ごく一般ピープルの女子高生・某イサナ。
遅刻の理由は、簡単に言えば自分のLBXをいじるのに夢中になってしまい、徹夜するつもりがいつの間にか寝落ちし…当たり前のように寝坊してしまったわけだ。
大丈夫、時間的にはアウトだけど3時限目には間に合うはず…!と、パンをもぐもぐさせながら街を駆け抜けた。

しかし目の前の横断歩道は…赤信号、しばらくストップしなくてはならなかった。
ふと左側にある電気屋のショーウィンドウを見つめる。テレビの液晶がぎっしりと詰められており、一面同じ画面を映していた。
1人の女の子――現在話題沸騰の、戦国武将系アイドル。

『伊達……マサムネ………』

新曲のPVを、曲に合わせて踊ったり刀を振ってかっこよく決めたりしているその姿は、現代の女子に求められている「肉食系」のよう。
派手に舞っている彼女と、普段家に引きこもってLBXをいじっている自分を比べるのはなんともむなしい。
だが、密かに伊達マサムネを、彼女を応援していた。


『って、もう青信号じゃん!』


画面越しの彼女に会おうなんざ百年早い……そう、思っていた。























『はぁ……しばかれたけど何とか間に合った………そして疲れた…』


放課後、いつものように家に帰ったら愛機とじゃれ合おうと疲れ気味に重い足を運んでいた……その時だった。

角を曲がるなり、ドンと人にぶつかってしまった。しかも相手は尻餅をついて転けてしまった。


『うおっ、ごめんね!大丈夫…?』
『いったた……平気です、こちらもぶつかってきてごめんなさい!』

手を差し伸べても貸すことなく立ち上がり、尻の埃を払ってから一礼してから急いでいるように走り去っていった。
帽子を被っているからよく顔が見えなかったけど、どこかで見覚えがあるような……
……まっさか!見た目があんな中1くらいの子なんて知らない。

しかし今日は災難だな…遅刻するわ人にぶつかるわ、と呆れて自分も行こうとした時だった。
…なんと、地面には1つのCCMが落ちている。黄色いボディのスライド式。
拾い上げて観察を始める。裏部分は1つも欠けることなくキラキラと光るストーンがぎっしりとデコられている。…もしかしたら、さっきぶつかった子の物かな……?

もしそうだったら大変だろう、早く彼女に渡さなければ。









『ない……ない!
ウチのCCMがあらすか!どこ行っとんがね!?』

落とした本人、現在駆け出し女優の秋原ミノリはここより近所のドラマのロケ地で、自分のバッグを漁って探していた。
ドラマと言っても、ただの学園ドラマの生徒役…いわゆる名無しのモブだが。けど今回はセリフが一言ほどあるのだ。

でもそれどころの問題ではなく、無くてはならない存在の物がいつの間にか消え、大いに焦っていた。
もしアレが他の人に見つかって、保存されている内容を悪用されれば…芸能人のよくある不幸な事件が脳裏に流れ、思わず青ざめた。


『……いやいや、こんな私の情報が欲しい奴なんて…
…そう言えば、さっきお姉さんとぶつかったけど…その衝撃で落としちゃったかも……!』


撮影時間までもう間もないが……走れば間に合うだろう。それに、途中に入っても所詮はモブ、なんの違和感もないだろう。
ミノリはこの場を離れ……る前に、マネージャーの田宮に1つお願いをしてから探しに飛び出して行った。
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