感謝感激!

□大きくなったきみ
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「ナマエ姉さん、いってきます!」
『……うん、いってらっしゃい…』



つい最近まで、近所で幼なじみのバンがお父さんを助けに行ったり、世界を救いに出かけたりした。けど、不安の顔を見せて私に挨拶をしにいくことはなかった。むしろ、自信に溢れていた。
自分自身は、まだ子供にこんな無茶はさせたくないと思った。それはまだバンを知らないから思えること。

でも、およそ一年が経ち……まだまだ子供だと思っていた時だった。


いつの間にか、私の身長を越している。14になったこの子が、ついに高校生になったばかりの私より成長したのだ。

ああ、もう子供なんて呼べない。弟のように扱えない。




『……また戦いに行くのね?』
「………ああ……」


目つきなんて、無邪気な瞳は消え去っている。もっと…甘えて欲しいけど、甘えるような年じゃない。

『…いってらっしゃい……
強くなったね…前とは全然違うよ、バン』


何気に、ふらりと言い放った。
また昔のように、目線より低い頭を優しく撫でたいけれど……置こうとする手は、動こうとはしなかった。
…この手で、バンを撫でていいのか……戸惑っていた。

「…ナマエ姉さん?」
『バンは……もう、甘えるような子じゃないんだよね…
変わっていったもの、何もかも……』

皮肉を込めて言ったわけじゃない。
自分の本音が…無意識に、だだ漏れになっているのは、触れたいものに触れない苦しみと辛さのせい。
さあ、可愛かった弟のような存在は消えて…1人の男となった幼なじみよ、さようなら。…これから強くなっても、私は忘れない。


「待って!
…どうしたの、ナマエ姉さん?」
『別にどうもしないよ…ただ見た目も中身も大人になったバンが嬉しいから言っただけ……
姉さんは、弟分が変わったことを「違う…!ナマエ姉さん、俺は何一つ変わってないよ!」

引き返そうとしたのに、とっさに私の手を掴んだバン。
…掴んだ手の感触は、昔懐かしい日を思い出させる。そうだ……この手は、がっしりしてるけれど温もりなんて変わってない。
掴んでいるのは…誰でもなく、バンじゃないか。

…でもなんて言えばいいのか分からない。
行動に迷っていると、また続けて彼は言い続けた。

「オレ……最近、ナマエ姉さんに頭撫でられてなくて…避けられてるって、思ってたんだ…
撫でなかったのは、俺が大人に見えたからなんだね……そうだよね、ナマエ姉さん?」


その言葉に否定する理由も根拠もない。…すべて事実。

『……そうだよ』
「でも!俺は…… 俺は………」



手首を掴まれているまま、沈黙が続く。
…バン、俺は………なんなの?

『バン、聞こえな……』
「姉さんだけ、でも……甘えたい、んだ…俺の「ただいま」を受け入れてくれる人が、いて……欲しいんだ…………」


…硬直。え、バン、今なんて……待って、今の言葉の意味は…

しかし相手は待ってくれず、手を離せば踵を返し手を振って「行ってきます!」と…去ってしまった。
今の言葉のバン…幼い顔してた。
……そうだ、幼くても大人になってもバンだ…近所のお姉さんで、「行ってきます」「ただいま」を受け取る1人の、バンの姉貴分なんだ、私は。
バンは、変わらないまま大きくなったんだ。

でもきっと何かは変わる。1つ小さな事が変わってもバンだ。帰ってきたら……『おかえりなさい』って、頭なでなでするんだ。
それまで、姉さん気長に待ってるからね。

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