フジリッツァの日常ときどきその他

□14行目の切れ端 眼帯少女の小さな恋
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「メイ先生何か計算してるのかなー?」
「計算、とはまるでロボットのような言い方でござるな。あながち間違いでもござらんが」
「つかよ、聞いたか? 聞いたか……ケンジからだもんな。
 ポルトンがジェノックに同盟を求めたんだがあえなく撃沈だってな、弱小国が無謀な事をなぁ」

「何が無謀だ!! アタシらをコケにしたアイツらが……わっ」
「おっと」
 偶然後ろで聞いてしまったのだろう、ポルトンの制服を着た眼帯の女子がフジリッツァ第2小隊の前まで走って食ってかかった。しかし別の生徒とぶつかり、彼女は転んでしまいそうになる。
 慌てて助けに入った……第2小隊隊長、ルクレール。医療用眼帯と、パイレーツ眼帯の出会いはここから始まった。
 目と目が合う瞬間、好きだと気付いた───



「えっヒナコ、フジリッツァの女装男子に惚れたの?」
「だっ誰が惚れただって!? アタシの憧れは郷田さん一筋だっての……!」
「だったら第2小隊についていかなくてよくない?」
「うるさいなー!」
「ちょっと、いくら雨の中でも大声出したらバレるって」
 彼に出会った次の日、沖田ヒナコの頭の中には必ずと言っていいほど彼がいた。絹のように滑らかで毛先が揃えられた長い髪、外国人とは思えないほど和服の似合う端正な顔立ち、そして何故着けているのか分からない医療用眼帯。中性的かつ和風な美しさが、自分の鼓動を早めていった。
「郷田ハンゾウとは正反対のタイプなのに、一体何があったんだ……」
「ていうかずっと見てるなら声かければいいのに」
「ぐっ……わ、分かったよ! やってやらぁ!
 ……な、なんて話かけりゃいいんだ!?」
「ダメだこりゃ……」
 雨が、少し強まっていった。それと同時に目の前にある3つの傘が純喫茶スワローに向かい、閉じられて店に入った。
「入った! 私たちも入るぞ」
「お、同じ店に入れっつーのかよ!? ってうわあっ!」
 ヒナコの傘が、強風に煽られて骨組みが壊れてしまった。ウミとリリカは仕方なく彼女を庇うように、急いで同じ建物へと入っていった。
 同じく雨宿りのために休憩しているのだろう、席は他の国の生徒で埋れていた。
 唯一空いているテーブルは……ルクレール達の、向かい側。
「ウワアアア近ぇよおおお!」
「落ち着いてヒナコ! 変に目立つとバレる!」
「そうだよ、ほらジュースでも頼もう?」

「あれっあの子昨日の子じゃない?」
「ソミュアは本当に可愛いおなごの顔は覚えるのでござるな」
「えっへへー」

 メニューで顔を隠すが、ヒナコはすでにブレイクオーバー寸前だった。オーバーヒートの連続で頭がついていけなくなりそうだ。
 だ、だけど相手は制服を着てるから分からないが、顔立ちからして華奢に見える。女装する理由も、きっと女に見えるから、自分に似合っているからだろう。
「しっかし今日はすげぇ雨だよな」
「む……あのおなご、少々濡れているようでござる。傘も壊れかけている……」
「……ねぇお兄ちゃん、まさか弱小国の子に親切しようとしてるの? 恩を仇で返されるかもしれないよ?」
「ソミュア……それは言ってはならんでござる。
 拙者は力で男と分かち合い、心で女と分かち合う。仇で返されれば、そのおなごの事が分かるまででござる」
 すくっ、と席から立ち上がり、カバンから手ぬぐいを取り出す。右手には自分の番傘が握られていた。
 ルクレールが立ち上がったのを見て、一気に緊張が高まるヒナコ。彼が一体何をしでかすのか、仲間の2人は息を殺して見つめていた。

「随分と濡れているが、平気でござるか? よろしければこれで頭を拭いてほしいでござる」
 彼に下心などない。そう自然に思えるのは、やはり外見と立ち振る舞いだろう。また彼に見惚れてしまったヒナコは反発することなく、黙って手ぬぐいを受け取った。
 お互いの瞳を見つめあうが、ルクレールの背丈の高さを見てやはり男だ、と感じる。体つきは細いが、そのしっかりとした手はLBXの強さを表していた、気がした。
「帰りの時も気を付けてくだされ」
「えっ、それはいいよ……! 傘なんてなくたって」
「おなごは体を冷やしたらいかぬでござる。この雨が弱まったら急いで帰るで候」
「いや、お前はどうするんだよ! コレが無かったら帰れないだろ!?」
「……拙者の心配をしているでござるか?」
「なっ、そんなんじゃ……!」
 メロドラマのような茶番がついに目立ち、周りの生徒がこちらに注目し始めた。しかし本人たちは全く気付かない。
 いきなり手ぬぐいで優しく、撫でるように頭を拭くルクレールに平然としていられるわけもなく、ヒナコは窓を通して外を見れば番傘を手に取り、さっさと席を立った。
「行くよ、お前ら!」
「えっヒナコ、私たちまだ注文してな……」
「いいから! 早く帰ってコレ洗うよ!」
「……はぁ、仕方ないね」

「……行っちまったな」
「ふむ、親切はして気持ちの良いものでござるな」
「お兄ちゃんのソコに痺れる憧れるゥ!」


 しかしヒナコは知らない。
 ルクレールはチームの華的存在のソミュアを第一に可愛がり、たまには厳しく愛でていることを。決してやましい意味ではなく、同志として、である。だがそれは他の女の子に対しては興味すらない、ということになる。ヒナコが失恋するのも時間の問題なのだ。

 第4小隊とアラタが罰せられた、後の出来事だった。

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