フジリッツァの日常ときどきその他

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 汽笛がゴオオオ、と重たく響く。
 神威島の港、そこには大勢の生徒が私服姿で集まっていた。


 その中にも、一際目立つ服装……いや、コスチュームというべきか、パステルカラーの、飾りがたくさんついたワンピースを着た美少女、なぜか巫女の衣装を身にまとっているストレートロングの眼帯美少女、そして、スカート丈がくるぶしまで下りているセーラー服を着ているスケバン風の美少女が一つにかたまっていた。
 美少女、と言ったが、実際彼女らの性別は全員男である。女装しているのは、原宿風のワンピースに変わった柄のタイツを履いている美少女、もとい少年の趣味。残り二人はそれに合わせているだけである。
 それほど、彼らは仲がいい。

 原宿ファッションの少年はソミュア、巫女が似合う少年はルクレール、スケバンの少年はシュナイダー。幼い頃からの親友で、LBXに限らず、ルクレールとシュナイダーはソミュアの女の子らしい趣味に付き合ってきた。しかし3人が主体を持って、ライバルとしてぶつかり合えるのはLBXだけ。
 3人お互い強くなろうと、フランスから日本へと揃って留学し、そして偶然か同じ国に所属することができた。またさらに仲のいいところを先生は知っているのか、3人はまたまた同じ第2小隊に配属されることになった。

 しかしその3人に、また新たな人物が加わることになった。3人はLBXのメンテナンス程度はできるが、専門的な改造知識・技術は持っていない。そこで、それらを持ち合わせるメカニックが配属された。
 彼女の名前は根倉チサト。根倉、という名字が「根暗」に見えるほど、彼女は自分に自信を持っておらず、前向きな発言が少ない。そして同じ小隊に配属されてからも、彼らの輪に入ることはなかった。
 当然なのだろう、元から仲の良かったグループに第三者が入っていくのは簡単なことではない。


 話を戻すが、現在の港には、私服らしくない私服を着ている3人の少年が固まっている。そして彼らの目の前には……チサトがいた。
 彼女はいつも瓶底メガネを掛け、目線は地面や床。彼らの顔をまともに見ようとしない。
 そして今も目を伏せている。一点だけ違うのは、その目がまるで別れを惜しんでいるようにまつ毛を小さく震わせているところだ。

「世話になったでござる、チサト殿」

 巫女姿で「ござる」を語尾につけた、奇妙な口調。ルクレールはどこかで日本の知識を履き違えたのだろう。

「お前が学園に残るったぁ意外だが、それほどLBXに思い入れがあるってことだろ? 強くなれよ、最強のメカニックとして」

 チサトは唯一制服を着ている。これから学校に行くからだ。
 彼女は自ら学園に残る道を選んだという。もちろん両親から帰るように説得された。あのよな問題のある学校にいられては自分の将来のためにならない、と。
 しかし、彼女は押されることなく、大丈夫だと電話を切った。

「僕たちも残りたかったけど……やっぱりパパとママは反対だって」

 彼らの両親は、どうしても彼らを故郷に置かせたいと粘った。ソミュアは毒ガスを吸って死んだと思われ、両親は想像もつかないほどのショックを受けたのだから当然だ。
 大丈夫、と言っても、彼らのいた神威大門統合学園は、子供を戦争の武器にした組織と絡んでいた。もう事件は落着したとしても、将来性を考えて、彼らをそこに残すことはできなかったという。
 チサトの両親も同じく心配しながらも、彼女の今までにない意志のある返事に何かを感じ、学園に残した。それか彼女と、両親が一歩成長したきっかけになった判断だった。


「……チサト、お姉ちゃん」

 ソミュアがもう一度彼女を見つめる。彼女は最後まで彼らと関わろうとしないのか、と不安になった。
 じっと、彼女を下から覗き見る。しかし覗く必要がないのがわかった。

 彼女の肩が、震えている。

「……チサト殿、おぬしには色々と世話になったでござる」
「LBXのメンテや整備、お前がいなかったら十分にできなかったぜ。サンキューな」
「僕たちね、お姉ちゃんがいたから戦えたんだよ。お姉ちゃんの器用なこの手が、僕たちの支えだったんだよ。
 だから、これからもっと、自信持ってほしいな。お姉ちゃんは、僕たちの中でいっちばんの! メカニックだから!」

 今度は、チサトの右手を両手で優しく包む。ソミュアの見た目は美少女そのものだが、包む手は男のようにしっかりしていた。
 彼らは彼女をまともに見ていないように3人で独自の世界を創り上げたが、ちゃんと彼女のことも気にかけていた。徹夜していると分かれば休ませるし、自分に自信がないことを言えば慰めた。しかしそれでも、彼らは彼女に壁があることを感じていた。
 彼女は自己肯定感がないことから、それぞれ輝かしいほどに可愛らしい3人がうらやましかった。そしてそれが、自己否定感を助長するのだった。
 お互いに壁があっても───彼らにとっても、チサトはうらやましく、尊敬できる人物だった。

「僕たちの中の次は、世界の中で、一番のメカニックになれるよ。
 誰も気付かない細かいところまで、機材を手入れしてくれてるんだもん。自分には何もないなんて、思わないでほしいな」

 そんな美少女の肩も、声も震え始めた。
 チサトの瞳からもついに涙がこぼれる。その涙は、別れを惜しむものでもあり───初めて、認められたことに嬉しさが積もってあふれたものでもあった。
 思えば、厳しい両親からの帰省の命令が下されても反抗して学園に残ったのは、まだ認められたい気持ちが強かったからだろう。幼いころは両親から褒められたことはあまりなかった。
 しかし、親のいない離島での寮生活なら……と、この道を選び、ようやく正解だったことが今になって実感できた。
 それが彼女にとっての何よりなことだった。だがそれで終わりではない。両親に元に帰るのは、学園を卒業してからだ。

「……うん、私、も……がんばる……」
「ん、じゃあ約束。僕たち、大きくなってプロになったら、メカニックにチサトお姉ちゃんを呼ぶね。忘れないでね?」

 ソミュアは腕元を飾っているシュシュを取ると、それをチサトに渡した。
 彼女は最初に驚いたが、彼にも涙がこぼれていることを知ると、ある一つの決心が生まれた。
 彼女もまた、強くなることを誓った。それも、彼らに見合うような、誰にも囚われないような個性を持って。

 メガネを外し、髪を高く上げ、ソミュアから貰ったシュシュでそれをくくりつける。先ほどの個性を失った見た目はどこへやら、根倉チサトは、ポニーテールの美少女となった。

「お前……メガネ外せばカワイイじゃねーかよ」

 それも、感性が一番まともなシュナイダーが彼女に惚れるほどの。


「では、また後ほど連絡するでござる。達者でな、チサト殿」
「……うん、そっちも、元気で」
「また会おうね、お姉ちゃん!」
「んじゃ、スズカらにも挨拶するか。……目ぇ見えてんのか? いつもその分厚いメガネかけてよ」
「……全然。アンタらがどこにいるのかも見えない」
「じゃあ今は掛けとけ、メガネ」


 美少女4人、いや少年3人と美少女1人の友情は、LBXでつながっている。離れていても。
 それが彼女のシュシュで、証明された。
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