フジリッツァの日常ときどきその他

□20行目その後 新たなフジリッツァへ
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「やだやだやだやだやだやだ帰っちゃやだーっ!!」
「んなこと言っだっでしゃあんめよ……
 (んなこと言ったってしょうがねえだろ……)」

 一方、第3小隊は。
 小隊長・樽酒ケンジは元々学園の真実を突き止めるためだけに神威大門にやってきた。事件が終わったことを両親に告げ、島に戻ることもその時に伝えた。
 そして、学園を発つ前にも仲間たちに進路を伝え……現在となる。

 正直彼にとってはここを離れることに、最初は未練はないと割り切ったつもりでいたのに、今ではチームメイトの説得に応えようかと思うくらい足が重たくなった。
 しかし彼の夢はプロのLBXプレイヤーではなく、両親と同じジャーナリスト。
 彼女らと過ごした日々は、手が焼けると思いながらも掛けがえなどなかった。彼女らがいたから学園で生き残れたし、学園の小さな情報すらも面白く思えた。本来の目的を忘れてしまいそうなときもあった。

 その手が焼ける問題児というのが、今ケンジの腕を引っ張っている名古屋巻きの派手な髪型の少女、鳥山スズカ。
 耳元のピアスにも見えるように、あまり不真面目には見えない。もちろん授業中は寝てばかり、嫌いな食べ物があったらケンジの皿にこっそり移す、廊下は走る、ハンカチは忘れる。しかし授業の遅刻はしてもウォータイムの遅刻はしなかった。
 ケンジのおかげでもない、彼女には確かにLBXへの愛があった。
 彼女が小隊で暴れられるのも、彼の、ケンジの采配があったおかげ。ケンジの上にはまた別の人物がいるが、スズカを飼ってるのはケンジというくらい、彼はよく彼女を操っていた。
 彼女も、彼がいなければブレーキのかけ方を知らなかっただろう。嫌いな食べ物はなんやかんや文句を言いながらも食べてくれたし、テスト前は覚えるべきことを教えてくれた。彼に迷惑をかけながらも、きちんと感謝をしていた。
 今までの学園生活は、ケンジがいてこそだった。

「アタシのトマト食べてくれるの誰になっちゃうの!?」
「いや自分で食えよ!」
「タマだっていなくなっちゃうから、ルイスがなに喋ってるのか分からなくなっちゃうよ……」
「……あのさ、ルイスも石垣島に帰るってさー」
「ルイスも!? 初耳なんだけど!?
 ていうか沖縄出身なのも意外すぎてワケわかんない!!

 じゃあ……アタシ一人、ってこと……?」

 ケンジはトチギシティに、タマはトキオシティに、ルイスは石垣島と、それぞれ帰郷することになる。
 スズカは母親から連絡が来たものの、自分の好きなように生きるようにとだけ告げられた。
 だから自分はLBXの腕を上げるために、ケンジ達と学園に残ろうと決めたが───こうして、自分以外の第3小隊が学園を去ることが決まった。

「おめぇはフジリッツァ以外の別のクラスにもダチいっぺ、別に一人じゃ……」

「じゃあもう、タマと遊べないの? ケンジは世話焼いてくれないの? ルイスは……もう、面白いマジック、見せて、くれないの……」


 今までの生活が、終わろうとしている。もう二度とは戻らない。この時こそ、仲間のいる学園生活がかけがえのないものだということが沁みる。
 スズカにとってあの時が一番楽しかった。勉強や事件など、大変な時があっても、4人でそれを乗り越えた。いや、クラス一丸で乗り越えた。しかしそのクラスの半分ほどは、ここを離れようとしている。もはやフジリッツァのクラスは、原型を留めず、崩れ始めているのだ。
 その残された中の一人であるスズカは、これからどうすればいいのかが分からない。今までの時間に彼らがいたからこそ、彼らのいないときが考えられなかった。

 だから本気でケンジを止めた。そして、タマと、ルイスを止めようと彼女らの手を取る。
 それでも彼女の説得に応える人は、一人もいない。決められたことだから、と心中思っても、それは言い訳でしかなかった。
 彼ら全員───涙を堪えないでいた。

「ばっかおめぇ……帰るに帰れなくなっぺな……!」
「うちだって、ここを離れたくは、ないのに……」
「………………………………」
「……ルイスも、みんなといて楽しかったってさ」

 タマの通訳がなくても、そう言っているのが分かる。
 別れるなら、高等部の卒業式までがよかった。彼らは出会ってまだ一年と少しだけなのだ。
 それでも離れがたく思っているのは、彼らはLBXによって、たしかにつながったからである。それは信頼の意味でもあり、絆の意味でもあり……普段とは違う友情が、彼らの間にはあった。


「……スズカ、また新しいダチ作ったら紹介してくれよ。メールくらい送れっぺ」
「……うん」
「大丈夫(だいじ)だ、おめぇなら。なんせ俺を手こずらせた問題児なんだ」
「……うん……」
「だから……」

「元気でね、スズカ」

「……最後のセリフ、取んじゃねぇよタマ……」


 樽酒ケンジ、葉隠タマ、穂村ルイス。それぞれ地元で穏やかに暮らす道を選んだ。
 鳥山スズカ。彼女のみ、プロのLBXプレイヤーになる前に、学園の復興に尽力することを決めた。

 4人がまた集まる未来は、そう遠くない。
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