フジリッツァの日常ときどきその他

□20行目その後 新たなフジリッツァへ
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「ファンくん、短い間だけどありがとうね」
「こちらこそ、シェイシェイネ」

 新生・第4小隊も、一人だけ退学を決めた生徒が現れた。
 メカニックのファン・ジーハオ。
 故郷の中国に戻り、のんびりとLBXを独学で勉強するらしい。

「ユタカ、ここに残るアルか?」
「ああ、やはり俺は学園が好きだからな。何があろうとも……微力だが、お前が退学したのを後悔するくらいにいい学園に建て直してやる。
 だがいいのか、コトセ、ユイ? お前たちまでここに残って」

 転校生のコトセとユイは、転校初日から学園が危機に瀕していたのだ。そして、学園の生徒が死んでいく(と思われた)様を目にした。普通ならこのような状況が適応できるわけがない。
 小隊内で一番冷静な喜屋ユタカだが、彼女らが学園に残る選択をしたことがありえないと内心驚いていた。
 そんな彼女らは、この学園に残る決心を彼に話した。表情はあの日から変わらず晴れ晴れとしている。

「だって、これから純粋なLBX専門校になるんでしょ? アタシたちはそこで学ぶために来たんだよ。退学するなんてもったいない!」
「それに明るい雰囲気はあったほうがいいだろ? ユタカたちが学園を建て直すんだったら、僕たちは学園を盛り上げることでたくさんのLBXプレイヤーに注目されたい。
 僕たちは僕たちにできることをしたいんだ」

 彼らも、学園の復興の手伝いをする道を選んだ。
 ユタカは最初、転校したばかりの彼らは現状に絶望するのではないかと心配したが、いらぬようで安心した。そして友と別れても悲しまず、また会えると信じている姿が、かっこよく見えたのだった。
 学園を盛り上げることも、復興の手段のひとつ。これで生徒の募集が右肩上がりなら万々歳だ。彼らも学園の英雄になるのかもしれない。

「……負けてられないな」

 普段はあまり表情を見せないユタカが、珍しく微笑んだ。




 かつての仲間たちが船に乗り込み、甲板へと向かう。そして、旅立ちが始まっても、ずっと、ずっと港に残っている仲間に、手を振るのだった。
 ルイスがパッと手を広げる。そこからは紙吹雪、トランプ……ハトが、海へと舞った。ハトは船上を羽ばたく。

 生徒は減ったものの、学園に平和が訪れようとしている。ハトを見て、そう確信したのは───フジリッツァのクラスの委員長、アーリーンだった。



『……皆さんは、行かないのですか』

 それは、第1小隊のメンバーに向けて言った言葉だった。
 桐生ショウ、歌場ジュン、そしてアーリーン・ウォーゼンは学園に残る道を選んだ。アーリーンのその質問は、彼らの心配の意味を含めていた。

「帰ってほしいのか?」
『いえ……』
「冗談だ。確かに俺は、もうリリアンの材料が切れたから、正直言うと本州に戻って補充したい」
「オレだってもっとカワイイ子と仲良くしてえよ。
 けど……そんなのを捨ててでも、やりたいこと、オレ達にはあるんだ」

 それが何なのかは、聞かなくても分かっていた。彼らも同じだったのだ。
 自分も、LBXが好き。好きだから、父がやってきたことにそれが利用されようとも、自分は正しく使いたいと、この学園にやってきた。そして、目標ができた。
 その目標を超えるまでは、ここを離れられない。いや、離れるつもりなど毛頭ない。もちろん、学園の復興に全てを尽くすつもりでもある。
 彼らも、青春をLBXに捧げる覚悟でいる。それほど、彼らの思いも負けていない。

 仲間との別れは悲しい。だが、平和な学園、平和な世界を作ろうと奮闘する日々に向き合おうと、港に残っている彼らは、船上の仲間達に、姿が見えなくなるまで、精一杯大きく手を振った。アーリーンも、腕を組んでしっかりと彼らの姿を見送り……やがて、小さく手を振った。

 ありがとう、皆さん。皆さんのことは、絶対に、忘れません。

 名前を覚えるのが苦手だったが、これまでのメンバーのことは、忘れることはなかった。
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